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■ 力を望む理由 ■



追ってくる足音が誰のものかわかっていたが、ヒュウガは速度を緩めることなく歩き続ける。
「待てよ、ヒュウガ!」
案の定、ディオンの声が呼び止めるが、足は止めない。
ああ、もう、という小さな声の後。
「ヒュウガ、逃げるな」
カーライルが伝家の宝刀を抜く。ぴくり、とヒュウガの肩が揺れ、足が止まる。
「やっと追いついた」
真後ろで足を止めたディオンが、肩で息をつく。
カーライルが、不満そうに声を上げる。
「ったく、なんであんな誤解されたまま放っとくんだよ!」
無言のまま、ヒュウガは立ち尽くす。今は、振り返りたくなかった。
「誤解されるのは、そう思わせるだけの否が俺にもあるってことだろう」
いつもの言い訳を口にすると、腹立たしそうに舌打ちされる。
「ヒュウガに否があるんじゃない、あるなら、何かっていうとヒュウガを悪者をしたがる連中の方だ」
「そうだよ、だいたいヒュウガがそんなことするわけないって、ちょっと考えればわかることなのに」
ディオンも、腹立ちが収まらないらしい。
「ヒュウガもヒュウガだ、どうして否定しないんだ」
「した、連中が信じなかっただけだ」
相変わらず、振り向けないまま返す。
「どうせ、一言言っただけだろ」
「…………」
図星なので、言い返す言葉が無い。
「頼むから、ちゃんと言い返せ」
「おい、黙り込むなよ」
肩をつかまれて、強引に振り返らせられる。
まだ、感情の全てを押さえ込んで出さないほどには、なれていない。
唇をかみ締めたまま黙りこくっているのに、カーライルが頬を膨らませる。
「ヒュウガがあんな風に言われて、俺たちがどうも思わないとでも思ってるのか」
「…………」
黙りこくったままのヒュウガに、ディオンが少し悲しそうな顔になる。
「俺たちがもし、あんな目にあっていたらヒュウガはどうする?」
うつむいていた視線が、一気に上がる。
釣り上がり、見開いた目が何よりヒュウガの感情を表している。そんなことは、絶対に許さない、と。
その表情に、ふ、とディオンの表情は緩む。
「俺たちだって、一緒だよ。悔しいんだ、ヒュウガが誤解されたままなんて。だから、ちゃんと言うべきことは言ってくれ」
「…………」
また、表情が消えてしまったヒュウガに、カーライルの眉が寄る。
「いいか、ヒュウガ。今度同じことになったら、俺たちは喧嘩しようがなにしようが、ヒュウガのことをかばうからな」
「それは……」
二人の視線を受けて、ヒュウガの視線が落ちる。
「わかった」
騎士の喧嘩は法度だ。例え、見習いの立場であったとしても。
でも、反対の立場ならば自分もそうするだろう。それだけ、自分も思われているということだ。
「すまない」
「なんで謝るんだよ」
「そうじゃないだろ」
口々に言われて、苦笑が浮かぶ。
結局のところ、どうしようと逃がしてはくれないらしい。二人の友人であるという事実から。
「ああ、その、感謝する」
ふ、と浮かんだ笑みに、カーライルとディオンも笑みを返す。
強くなりたい、と思う。
いや、ならなくてはならない。
騎士を目指すからには手に入れたい夢の為だけではなく、己を守り、大事な友人を傷つけない為に。
誰よりも、強く。

2006.11.18 Reason for strength


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