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■ Luna piena ■



月明かりを背に、銀の髪が薄い光をうつして揺れる。
近付いてくる足音に振り返ったのだ。
「やっぱりここにいたな」
半ば呆れた声を上げたのはディオンだ。後から登ってきたカーライルが薄く笑う。
「大方、助けてくれたお礼とでも言われて舞踏会かなにかに引っ張り出されたんだろう」
完全に言い当てられ、聖都の塔の上のヒュウガは憮然と口を引き結ぶ。
「そんな顔してもダメだぞ、わかってるんだから」
「そうだ、その顔が当たりだと言っているようなものだ」
くすくすと笑い出す二人に、つられるように苦笑を浮かべる。
「ああ、そうだな」
「ほら、忘れ物だ」
見慣れた瓶を上げて見せたのはカーライルで、すぐにディオンがグラスを差し出す。
満たされたグラスは、月明かりを映してゆらりと煌く。
掲げて、カーライルが柔らかに言う。
「先ずは、三人が無事に帰ったことを祝って」
「無事、役目を果たしたことにも」
ヒュウガが付け加えると、ディオンが笑んで頷く。
「そして、三人の夢に」
澄んだ音が、静かな夜に響く。
「にしても、ヒュウガは人気だな。この間も捕まっていただろう」
ディオンが感心した顔つきで言うのに、カーライルが笑う。
「それは当然だ、ヒュウガの浄化能力は銀樹騎士団でもダントツだからな」
「攻撃としては、だろう。それだけだ」
いくらか眉根を寄せたヒュウガに、ディオンが苦笑する。
「ほら、そんな顔をしない。本当のことなんだからさ」
「そう言うのなら、剣技ならばカーライルに比類する者はおらん」
生真面目な顔で言い切るのに、カーライルも大真面目に返す。
「ヒュウガの得物は槍だろう」
「カーライルも屁理屈を言うな」
ディオンはボトルを持ち上げる。
「俺から見たら二人とも、すばらしい腕の持ち主だよ」
にこやかに言うのに、カーライルとヒュウガが同時に返す。
「貴様を棚に上げるな」
声が揃ってしまい、顔を見合わせて苦笑する。
「まぁ、そういうことだな」
「そうだな」
そつなくディオンが満たしたグラスを、誰からとも無く上げる。
「銀樹騎士団最強の三人に」
カーライルの言葉に、ディオンがくすくすと笑う。
「強気だな」
「悪くない」
「ヒュウガまで」
ディオンが目を丸くするのを見て、カーライルとヒュウガが笑う。
グラスに口をつけてから、ディオンが、ああ、と小さく声を上げる。
「どうした?」
「今回の仕事で、オラージュを通ったって言おうと思っていたんだよ」
夢魂の塔へと向かう街道沿いにかなり強力なタナトスが現れた場所だ。ヒュウガが、軽く眉を上げる。
「あれからは出ていないそうだよ。銀髪の騎士の方にお礼をってさ」
「そうか」
笑顔と共にの報告に、口の端に笑みが浮かぶ。
「貴様、もっと素直に喜べよ」
カーライルがからかうように言うと、その笑みは困ったように消える。
「わかってて無理を言わない」
呆れた口調だが、ディオンの顔にも笑みがある。
「ほら、貴様も気にするなって。からかって喜んでるんだよ、わかってるだろ」
「そうそ、気にするな」
カーライルも肩をすくめる。
自然と、ヒュウガの口元も緩む。
緩やかに月が、傾いていく。

2006.11.18 Luna piena


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