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小さな太陽
■ Ver. Peru ■



人が隼へと姿を変える。
悪魔の実の力を知る者でも目を見張り、そして以降はいくらかの距離を取るようになる。
異なるモノとして。
どうあがいたとて変えられぬ事実であるし、変化するのはアラバスタの守護神と崇められる隼だ。
そうは思うが、他人に変化していく様を見られるのは気が重い。
相手がアラバスタ王家に関わる者たちであるのだとしても。
その能力ゆえに、若年ながらに護衛隊への入隊が認められ、当然のこととして、王たちに守護神へと変化する様を見せることになった。
大広間に姿を現した隼に、周囲からは低いどよめきが起こる。
驚きと畏怖が入り混じる視線と声。
その中にいくらか舌足らずの明るい声が響く。
「すごい!」
と同時に王の服の裾付近から小さな空色の塊が転がるように飛び出して来る。
「ビビ様!」
周囲が止める間もなく、隼の姿のまま平伏するペルへと走り寄り、その翼へともみじの手を伸ばす。
そして、ペルが硬直しているのをいいことに、翼の下へと潜り込む。
ペルの方は、幼い姫君をどう扱っていいものやらわからず、妙な位置に潜り込んでしまったのを、息詰まりにくいように抱え直してやる。
顔を出したビビは、満面に笑顔を浮かべる。
「あったかいねぇ」
目を細める子供の仕草に、誰も思わず微笑んでしまう。
冷厳に存在するはずだった隼は、ビビの笑顔であっという間に柔らかな羽で子を守る親鳥になってしまった。
「すごいねぇ、とべるの?」
「はい」
人が変化したモノを、誰もが異形という目で見るのに。
この広間に集まった人間も、大多数はそうなのに。
いっぱいに見開いて自分を見上げる瞳には、恐れはまるでない。
ただ、素直な感嘆。異質なモノとして、排除しようなどとはカケラも思いも寄らない。
そっと、抱え直す。
より、柔らかで、暖かいように。
ビビは、くすぐったそうに笑い声を立ててから、もう一度ペルの顔を見上げる。
「うわ、おめめ、きんいろなのね、キレイ!」
その言葉に、自然と笑みが浮かんでくる。
隼に変化している時には、ついぞなかったこと。
心の中のなにかが、柔らかに変化する。
ビビは、満面の笑みで言う。
「ね、ね、ね、わたしのせてとんで!」
その言葉を聞いたなり、護衛隊長官であるイガラムが血相を変えて立ち上がる。
「いかん、絶対にいかんぞ!それをやったら罰っするからな!ペル!」
「えー、ペルはなんにもわるいことしてない!」
ビビの抗議にイガラムは唾を飛ばす。
「なんでもです!ペル、人に戻りなさい、人に!」
「あ、はい、いや、でも」
ビビにしがみつかれたままでは、どうにもならない。
あはは、と楽しそうに笑い声を上げたのはコブラ王だ。
「ビビ、ペルが戻れないから離れなさい」
「いーやー、だっこしてもらうの!」
抱っこ、と言われて、なるほどそのカタチのままで戻ればいいのだと気付く。
ゆっくりと人へと変化した腕には、小さな青の少女。
相変わらず、にこにこと微笑んだままだ。
「ねぇ、ペル!こんどは、たかいたかいして!」
翼を持った姿では、出来ないこと。謁見の場であって、遊ぶ場ではないことは重々承知なのだが、思いきり高く上げてやりたくなる。
抱き上げたまま、視線をコブラ王へと戻すと、楽しそうな笑みと合う。
彼は、ペルの腕にビビがいるままのことを気にしてはいないらしい。
「気に入られたな、なにかとビビが世話をかけることになりそうだが、頼むよ」
「はっ」
相変わらずしがみついたままのビビを、抱き直しつつ、ペルは頭を下げる。
自分の凍りついたなにかを、緩やかに暖めてくれる存在を守り抜いてみせると心に誓いながら。

2004.04.08 Litte Sun 〜Ver. Peru




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