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守護する者



二年ぶりであったから見間違うなど、あるはずもありませんでした。
騒ぎの中心にいる、空を思わせる青い髪。
追い詰まっているのは確かなのに、貴女はまっすぐに視線を上げていました。
ガトリングをかまえて空に舞い上がりながら、自然と笑みが浮びました。
知っている貴女よりも、ずっと強くなって戻ってきたのだと、その視線だけで感じましたから。
回された腕が酷く細いのに驚いて、それから確かなぬくもりに安心して、また、貴女を守ることが出来ることを誇りに思いました。
貴女を守ることが出来るのは俺しかいない、と。
でも、それは違いましたね。
貴女には、とても素晴らしい仲間が出来ていました。
彼に、「肉」と言われて服をつかまれた時には驚きましたけれども。
次の瞬間に派手にお腹が鳴ってくれたおかげで、お腹が空いているから肉が食べたい、と言っているのだと理解出来て、いくらかほっとしました。
もちろん、もっと驚きもしました。
あれだけのケガをしていて、出てきた言葉が「肉」ですよ?
いくらか力が抜けてしまったのも、本当です。
まずは手当てをしてからだ、と告げて、肩を貸して医者へ行って。
二人して、手当てされました。
それから、彼の名を聞きました。
彼はルフィと名乗ると、しししっと笑いました。
あの女から、貴女をこの国へ連れ帰ってくれた当人だと聞いておりましたので、手紙の内容と考え合わせて海賊のリーダーなのだとわかりました。
知っている海賊の誰とも違うと気付いて、俺はまた、驚きました。
気持ちのいい笑顔だと、そう思ったんです。
海賊王になるんだ、と彼は笑いました。
とんでもない言葉のはずなのに、俺の中にすんなりと入ってきました。
それから、真剣な顔になり、今はクロコダイルをぶん殴るのだ、と。
君が海賊王になるのとは関係ないことではないのかと尋ねると、彼はまた、しししっと笑いました。
だって、ビビは俺の仲間だもんよ。
海賊の仲間と言われたのに、俺は驚きませんでした。
ただ、自然と笑顔になるのがわかりました。
ありがとう、そう言いました。
鼻の下をこすった後、彼は実に情けなさそうな顔つきになって言いました。
それよりもなによりも、ともかく。
もう、続きはわかっていました。
飯を、食べに行こう。
俺の言葉に、彼の顔がひどく輝いて、俺は今度は声を立てて笑ってしまいました。
声を立てて笑ったことが何年ぶりなのか、俺にももうわかりません。
でも、彼といると自然と笑えてきた。
きっとたくさんの苦労をなさってきたであろう貴女が、こんな人たちと出会えたことに感謝します。
今、貴女が心から笑ったら、とてもまぶしいのでしょうね。
そんなことを思いました。
見たことも無いような勢いで目前の料理を片付けていくのに付き合いながら、ぽつり、ぽつりと漏れてくる言葉から、クロコダイルも悪魔の実の能力者で、砂へと変化するのだということがわかりました。
砂ならば、アラバスタの人間にはこの上なく身近なものです。流れていくのならば、対処は簡単なこと。
固めてしまえばいいんだよ。
俺が言うと、彼は大きな眼をさらに真ん丸くしました。
どうやって、と大分聞き取りにくい声で問い返したので、俺はテーブルにあった塩を軽く皿の上に山にしました。
そして、コップの水をかけていきました。
彼の眼が、さらに大きくなっていきます。
ごくん、と口にしていたものをやっとのことで飲み込んで、それから一言。
すげぇ。
アラバスタ護衛隊の名で樽一杯の水を買い、そして俺は彼を背に飛びました。
アルバーナへ、一直線に。
クロコダイルが向かうのがそこだ、とあの女の言葉で察しがついていたからです。
そこから先は、貴女もよくご存知ですね。
いつの間にか、二年前に力が入ったままになった肩から、力が抜けていました。
俺に出来ることをやればいい。
皆が地上からクロコダイルが仕掛けた爆弾を探すなら、俺は空から見つければいい。
爆弾が、それ自身も時限装置付なのならば、遠くへと持ち去ればいいのですよ。
簡単なことです。
そう、隼になることの出来る、俺ならば。
必死で爆弾のことを告げる貴女の顔を見つめながら、何度もこの時計台から飛び立ったことを思い出しました。
怒っていても泣いていても、俺の背に乗って飛び立つ時には笑っていましたね。
俺が飛び立った後には、きっと。
また、笑ってください。
貴女と、貴女が大事にしているこの国を、人を、いくらかでも守ることが出来る俺を祝ってやって下さい。
ああ、でも、ヒトツだけ。
もう一度、貴女の笑顔を見ることが出来ないことだけが、少し残念です。

2004.06.30 Onlyone's Gardian




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