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夏の夜のLabyrinth

■■■ I'll remember - Windy lea ■■■



さらり、と風が流れいく。
彼女は馬を止め、空を仰ぐ。
軽やかな音楽を奏でるように、風は過ぎていく。
何度も、彼が繰り返した言葉を思い出す。
この北の地で最も美しい音だ、と。
それから、この風が、最も彼女に似合う、と。
確かに、美しい音だと、耳にする度に彼女も思う。
だが、最も似合う、というのが本心であったかは、微妙なところだ。
あまりに何事にも抜きん出ている彼女のことを、宮殿の者は奇異の眼で見た。
息苦しい環境は辛かろうと、誰よりも気遣ってくれていたことを知っている。
そんな優しさが、言葉へとカタチを変えたモノではなかったか。
そして、そんな言葉を紡がせた自分には、甘えがあったのではないか。
この風に行き会うたびに、同じ問いが、繰り返される。
草と共に歩む日々は、実に穏やかに行き過ぎる。
純粋に草と共に生まれ育ったのならば、ただ、素直に感謝して生きていくこととなったろう。
でも、彼女は知っている。
今更、知らぬことには出来ない。
少しずつ、少しずつ、草と共に生きる者たちが変化していっていることに、気付かぬわけもない。
やはり。
今、彼女がいるべき場所は、ここではない。
草の上に、風と共に駆けることは、とても愛しいことだけれど。
それは、もっともっと、先でも出来ることだ。
彼女にしか、出来ぬことがあるのならば。
背を向けて、眼を閉じて、いいわけがない。
ここで為すべきことは、したと言える。
それならば。
馬の、向きを返る。
その視線は、ますぐに風が起こった場所を見据える。
この地に来て、初めてのこと。
にこり、と微笑む。
その笑みも、ここに来てからの穏やかなモノではない。
氷のような、と時に評されてきたそれ。
やはり、このようにしか生きられぬようだ。
心で、呟く。
今ならば。
話してわからぬ、彼らではない。
そして、いつであったとしても。
彼女の心をわからぬ、彼ではない。
思うままに走ればいい。
彼女の馬は、軽やかに走り始める。
また、風が吹く。
軽やかに、涼やかに。
彼女の背を、押すように。


〜fin.

2004.02.15 A Midsummer Night's Labyrinth 〜I'll remember - Windy lea〜 Presented by Yueliang


■ postscript

風に吹かれているのは雪華。
今彼女にしか出来ぬことは、アファルイオでの宇宙開発事業開始です。



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