さ さ や く コ エ



飛ぶように走る君。
大丈夫、彼は君を置いてゆくことはしないよ。
でもほんの少しでも早く追いつけるよう、私が手助けをしてあげよう。
ほら、彼がこちらを振り向いてくれるよ。



おや?
大切な彼に、素敵な言の葉をもらったみたいだね。
こんなにキレイな笑顔を向けられて、彼はとても幸せものだ。
それを羨ましいと思ってしまうとは、私もずいぶんと人間臭くなったものだ。




そんな君に、小さないたずらを仕掛けてみよう。
本来ならこの場にいる君に届くはずのない 唄 を届けてあげよう。
君のルーツとも云える、故郷の唄だ。
あまりにも遠い処で歌われているはずのものを耳にして、ビックリした君の顔。
これは、私だけの宝物だ。




今、君が見上げている薄紅色の花びらは
吹き飛ばされ、全て散らす事も含めて一つの役割を終えようとしている。
その束の間の美しさを静かに賞賛している君の横顔は、年相応に見えて、なぜかとても嬉しく思える。
きっと、傍らに立つ彼も、私と同じ事を思っているのではないだろうか。




形を持たない私は、たくさんのものに出会い、たくさんの事象にであってきた。
その中でも君との出会いは、最も素敵なものであったな。




少しだけ、立ち止まってご覧。
木漏れ日と、その向こうに見える青空が見えるかな?
少しだけ枝をゆらして、光の揺らぎをみせてあげよう。
頑張っている君へのささやかな贈り物になるだろうか。







風。
それは、季節の流れ、時の流れとも、似ているかもしれない。


〜Copyright (C) 2007 Itsuki Tsukino & Minato Takehara. All rights reserved〜



+++ つきの樹サマ(小話)/ 竹原湊サマ(絵) +++

誕生祝い+元気付けに、またもステキなコラボをいただきました!
樹さんの小話に、湊さんの絵、しかも童話風。
雪華がもう、なんとも可愛らしいですよ。
これは、風でなくても惚れますよ。
本当にありがとうございます!

やはりここはヒトツ、風の視線の向こうにいるもう一人を、ということで、樹さんと、素敵絵を描いてくれた湊さんへ、お礼を込めて↓。

※竹原湊さんは、ステキな小説サイトをお持ちです。ぜひ、どうぞ。



『 君の手を取って歩こう 』

とん、と何かに背を叩かれた気がして、振り返る。
一生懸命の足音に、気付いてなかったわけではない。でも、もう少ししてからでもいいかな、なんて考えていた。
走る彼女は、自分が必死の顔をしていると、気付いているのだろうか。
そんな顔をされたら、手を差し出さずにはいられない。
握って、離したくなくなるに決まっている。
でも、自分にそんな資格があるか?
見合っているか?
問い返して、いくらかためらう。
それでも、彼女の瞳と視線が合うと、自然と笑みが浮かんでくる。
今の自分が相応しく無いというのなら、そうなればいいのだ。
いや、絶対になってみせよう。
だから、彼女は離さない。
手を伸ばし、そして微笑む。
「一緒に、行こう」
必死の顔は、ふわり、と笑みへと変わる。
小さな手が、自分の手に重ねられるのを、しっかりと握り返す。
歩き出そうとした、瞬間。
彼女は何かに驚いたように振り返る。
目が見開かれているのが、ちらり、と見える。
おやおや、と思う。
今年の春は、ちょっと不可思議なことが多いような。
見えないものに肩を叩かれたり、彼女が何も無いはずの空間へと振り返ったり。
何が彼女を気に入ったのかは知らないけれど。
仕方ないかな、なんて思いながら彼女へと再び笑みを向ける。
「どうかした?」
慌てて首を横に振る彼女の手を引いて、いくらか早足で歩き出す。
「ほら、今しかダメだから」
首を傾げる彼女をつれて、行った先には桜の大木。
まるでタイミングを合わせたかのように、ざあっと風と共に花びらが舞う。
美しいとか綺麗とか、口にするのは簡単だけど。
そんな言葉は陳腐でしかない。
空気を染めるように舞う花びらを、いつになく素直な笑顔で見上げる彼女。
それが、全て。
にしても、はかったかのような風。
ああ、そうか。
彼女を気に入ったモノは。
それならば、ややしばらく舞うことを許しておくことにしよう。
だけど、と心で呟く。
お前が仕掛ける色々で、まるで万華鏡のように変わる彼女の表情は、独り占めはさせないけれど、ね。
に、と笑って、彼女の周りだけ、ほんの少しだけ強く回るモノを見やる。

2007.02.17 A Midsummer Night's Labyrinth 〜I walk hand in hand with you〜



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