涼やかな音を立てて、波が来る。
涼やかな音を立てて、波が還る。
限りない豊饒を与えてくれるモノ。
時として想像を絶する災厄をもたらすモノ。
それを見て、人は言う。
まるで、生きているようだ、と。
無限に広がるものに、意志はあるはずないと、思いながら。
姿が水である限り。
泣いても、人は気付かない。
波に託した声は。
涼やかな響きとしか、受け止められない。
陽は、こんなに暖かいのに。
よせる波は、こんなに冷たい。
そっと波に手を触れて、柔らかくなでる。
波は、少し暖かさを取り戻し、還っていく。
涙に気付かれぬことの嘆きを飲み込み。
託した声が、聞こえぬことを飲み込み。
ただ一人、聞いてくれる者がいる。
それだけを、慰めにして。
-- 2001/06/12