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「憎き者たちの名簿」



+++ 余所見 サマ +++


余所見さんの十二宮、再びです!
「久しぶりに描いてみたら、だいぶ変わってました」とのことですが、それぞれに成長した十三人に乾杯です。
玖瑰がますます美人になったとか、宵藍がますます企んでる目付きになったとか、いろいろ注目点はありますが、最も注目なのは黛藍でしょう。
視覚は判断材料としての比重が大きいと思うので、この姿もいいなぁと。
柔らかいのに視線が強い十三人、本当にありがとうございます!

そんなわけで今回は本編後、千の時を対峙する彼らのおまけ話です。


ニ宮物語

 時祭の (或いはで最も力ある者の呟き)

天で最も力ある者と呼ばれる男の手には、一枚の紙片。
十三人の名と顔を記したソレを、汚らわしいものでも見つめているかのような不機嫌な視線で見つめる。
乳白(ルーハイ)に己の祝福が信頼している紅狐(ホンフー)に滅されるところを見せ付けてやろうとしたのに、見事としか言いようのない無邪気さで、全く気付かなかった。
紅狐は紅狐で、なにをどう割り切ったのか知らないが、乳白が見ているということをわかっていながら、全く動じなかった。
紅蓮(ホンリョン)と青蓮(チンリョン)は、枯緑(クーリュー)と芽緑(ヤーリュー)がどのようなまじないをかけたものか、なにをしてもあっさりと避けてしまう。
ついでに子供らしい無邪気さで、己の手出しに巻き込まれた人々の怨嗟まで届けてきた。
橘橙(チューチョン)は相当な手出しをしたところで見事に海をなだめてしまったし、ことのついでに誘い出そうとした叶緑(イエリュー)もあり得ないほどの忍耐強さをみせて、わずかな気配ですら現さなかった。
海自体、奇妙に橘橙に懐いているところがあるから、これ以上の手出しは返って命取りになるだろう。
叶緑の代理を務める花白(ホンパイ)でさえもが、あれほどに強くかけてあったまじないを解いてしまった。
兄を思う気持ちが強すぎるゆえに、良い手駒になると思っていたのに。
玖瑰(クンメイ)は最も弱いところとついたはずだったのに、どこか冷めた笑みを浮かべて避けてみせた。
黛藍(タイラン)は己の判断をゆるがせない為に自らその眼をついてみせ、曙紅(シェーホン)は揺れながらも最後の砦は崩さない。
元々、湖緑(フーリュー)は巌の如く動かぬし、その命の源である水を腐らせてやるはずだった宵藍(シャオラン)は玖瑰の機転と湖緑の腕で見事に避けてみせた。以来、守護司たちの頭脳はますます冴えをみせているようで、いまいましいことこの上ない。
辰沙(チェンシャ)はのらりくらりと己の性格を掴ませず、弱みを絶対に見せようとはしない。
丁香(ティンシャ)は、髪を切った時点で手出しすることは不可能だ。
千の時は長く見え、それでいて容赦なく過ぎ行く。
このまま打つ手が無ければ、彼らの思うがままの結末を迎えるだろう。
それだけは、避けねばならない。
この、天で最も力ある者がねじ伏せられるなど、あり得ぬことだ。
どうあっても、打破してみせる。
手にしたモノを、握りつぶす。

湖で、いつもと同じように全てを記す本の頁を繰っていた宵藍は、微苦笑を浮かべて本を閉じる。
「どうか、したのか?」
ちょうど、姿を現した湖緑が首を傾げる。
「まだ気付かぬか、と思っただけだ」
「ま、気付きにくいトコにいるけどね」
肩をすくめたのは、湖緑の後ろから現れた玖瑰だ。
「私たちみたいに、生きた彼らを目前にしているわけじゃないんだもの、不利な位置にいるのは確かだわね」
「それに、孤立してると思ってるしな」
苦笑気味に口を挟んだのは、いつの間にか反対側から現れて腰を下した辰沙。
辰沙の背後から姿を現した紅狐が、軽く鼻を鳴らす。
「ああいうタイプは、拗ねると手に負えない」
「それでも、まだ、時はある」
湖緑が、静かに言う。
ふ、と笑みを浮かべたのは宵藍だ。
「ああ、そうだ。己の感情のままにある者が天で最も力あるということなど、あり得ないと気付けば良いだけの話だ」
「それが、最も難しいがな」
辰沙の言葉に、玖瑰が笑う。
「ああら、あれだけ短い人生の中で人だって気付くのよ?もしも気付かぬのなら、その資格を自ら放棄したということに他ならないわ」
かさり、と新たな足音が加わる。
「あら、珍しく集まっているのね」
丁香が微笑む。
その姿を見て、宵藍は手を打ち鳴らして笛を出す。
視線を見交わしただけで、宵藍は笛を口元へとあてがい、丁香は腰を下す。
静かに、『草原を駆ける黄金の風』の調べが流れ出す。
願いを込めた調べが。

-- 2004/09/12



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