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新三国志


□ ストーリー
用心棒家業をしていた関羽と張飛は、賊の中で唯一立ち向かってきた青年を捕らえて、驚く。
なんと、男装した女性(玉蘭)だったのだ。
劉備と名乗り、血筋を偽り、世を正す為に義賊まがいのことをしてのける彼女に巻き込まれているうち、関羽たちもその志に打たれ、桃園決義を結ぶことに。(第一幕)

曹操と邂逅したりしつつ、新興勢力として脅威とされた劉備たちは軍師として孔明を勧誘。
同窓の程仲徳に曹操軍に誘われつつも、目的の為には強引な手段も辞さないやり方に疑問を抱いていた孔明も、劉備に共感して出蘆。
見事、孫権と同盟して赤壁にて曹操を破る。
が、同じく脅威と見なした孫権たちは、妹を劉備に娶わせたいともちかける。陸遜が、劉備の秘密を聞きつけ確認させようという密謀を画策していたのだ。
が、劉備は心を割って妹に全ての真実を語ることで共感を得、事なきを得る(第二幕)。

劉備たちは、とうとう荊州と蜀を得る。
関羽は荊州の守備に。
急激な勢力拡大に、孫権は曹操へ挟み撃ちを提案。躊躇った曹操だったが、己の余命が一年と知って翻意。
曹操軍襲撃と聞き、関羽は援軍として張飛を招請。己は出陣する。
が、留守中、無茶な進軍をしすぎた張飛は部下に暗殺され、荊州は落ちたと連絡が。しかも曹操軍進撃は囮であることも判明。
そして、孫権軍の人質となった人民たちを救う為、己の命を差し出す関羽。
関羽の死を知った劉備は怒り、荊州奪還の為出陣。だが、夷陵で敗れてしまう。
あわや敵の手にかかる間際、神となった関羽が現れ、共に天へ(第三幕)。


□ 感想なぞ
初心者故に知らなかったことメモ。
新橋演舞場の会場は10時半。
筋書き(映画などでいうパンフ)は2000円也。
総上演時間は四時間半で、全三幕。幕間には30分の休憩が挟まれる(お弁当なら充分に間に合う間合い)。

第一幕
歌舞伎自体が初だというのに、席は勢いで購入した一等席で一番前。
まずは、黄巾の乱で世の乱れを表現。
黄色い集団が大きな旗をもって現れ、いきなり大旗を飛び越えたりバクテンしたりとアクロバットで縦横無尽に大暴れ。
京劇ライクだと思ったら、実際京劇の方々だったそう。
同じく京劇メイクな張角が、手品のように剣を取ったのも鮮やかな印象。

黄巾賊が消えたかと思うと、二人の武将が。
わぁ、関羽にヒゲがない!
ヒゲ無関羽
しかも声がちょっと高いけれど、すぐに気にならなくなる貫禄の凄さ。なるほど、猿之助丈って凄いです。
張飛は、イメージ通り。↓
むくむく張飛
暴れん坊の力自慢で、まっすぐで、ちょっとコミカル。当然の如くお笑い部門はすべて張飛の担当(笑)
↓男装した設定である劉備は、美人さんです。
らぶりー劉備
歌舞伎なのだから、玉蘭は男の人が演じてる女で、さらにそれが男装してるっていう設定で、考えてみると大変にややこしい。
だが、笑也さんの玉蘭はややこしさを忘れる健気さと真の強さと可愛さが入り混じったヒロインでした。

悪代官が民衆をイタぶるシーンは、手を切り落としたり足を切り落としたりすると血がドバーっと出る仕掛が意外と怖かったです。血は布なんだけどな……
桃園結義のあと、黄巾の乱はおさまったものの、群雄割拠の時代に突入したことを張飛が説明。
舞台では、青、赤、紫、黄色、水色といった、多色の兵が現れて戦を繰り広げていて、多色が多数の群雄を端的に表す演出がキレイでした。
最後に淘汰された、ということで背後から紫を背負って曹操が典韋を従え、青を背負って陸遜を従えた孫権が登場。
シンボルカラーは随所に使われるのですが、背景のみでどこの陣営だかわかって面白いです。
で、孫堅と孫策がすっ飛ばされたことより、百年の名門呼ばわりが気になりました。アレですか、孫堅が勝手に名乗った孫子の子孫ってヤツですか?となると百年どころではありませんが。
それよりも、すでに魏の曹操と呉の孫権ってなことになっていたのが更に気になりました。
献帝、全く立場無。今回は、劉備たちの旗印にもしてもらえなかったので、その存在すらありません。
強大な敵がはだかる雰囲気たっぷりに第二幕へ。


第二幕
曹操がヘッドハンティングに現れるところから。
劉備たちみんなを目的と見せかけて、実は本命は関羽だったりします。
「夢を信じている」と言って断る関羽もカッコいいですが、認めて手出しをせずに立ち去る曹操の度量も感じるいいシーンでした。
口にはしないけれど、節々に玉蘭に惚れぬいてるのがわかるあたりが面白い。

場所は変わって隆中。
いよいよ、孔明が登場ですよ!
ふくよか孔明
ちょっとふくよかなのは置いておいて、一緒にいるのが程仲徳なのに吃驚。
孔明と程仲徳が学友という民間伝承ネタだと気付くのに間が必要でした。
劉備は孔明を見込んだ理由の根拠は勘というのは女の勘ということなのでしょうか。
孔明もまた劉備の明かした真実に心動かされ、『天下三分の計』を示し、呉と手を結んで曹操を叩くことを進言。
自ら呉に赴いて同盟を締結するのですが、作戦を与えるだけで「荊州をよこせ」と言い切っちゃうのはあつかましいのでは(笑)。
呉では、陸遜が出張りまくりで周瑜、影も形もありません。
魯粛が物知り役で、じいさまなことを除けばオイシかったです。

孔明出蘆、呉と同盟締結ときたら、赤壁の戦い勃発しかありません
巨大船が登場と同時にドライアイスのスモークがやってきて、煙を現してるのか、すごいな、などと感心したのもつかの間。
もくもくもくもくもくもくもくもくもく…………と、客席にどんどん煙が来るではないですか。
で、最終的な私の視界。↓
もくもく視界
かろうじて煙の間から、船の一番上にいた典韋が「曹操様ぁ!」と叫びつつ沈んでいくのが垣間見えた程度でした(某アニメをチラリと思い出したのは秘密)。
船の舳先に兵がぶら下がったりしてたようですが、定かではありません。
一瞬、一番前って失敗?と思ってしまった箇所。熱いシーンのはずなのに、ヒンヤリしてたし(ドライアイスだから)。
逃げる曹操が乗る小船に矢が刺さるカラクリに吃驚したのですが、それ以上に、花道は船も渡る事実に驚きました。

単独では曹操に太刀打ちできないと踏んだ孫権は、義兄として立場は上でいたいと、劉備と妹を政略結婚させることを決意。
政略結婚となるのですが、道具扱いで怒る香渓(孫権妹)に劉備は秘密を明かして意気投合。
いくら必要と判断したからとはいえ、こんなにばんばんと秘密を明かしてたら、どっかから漏れるだろう
陸遜に「劉備殿は女だとか?」と言われて、けつまづいて花瓶を割っちゃう張飛はかわいかった。


第三幕
幕間に係員さんが登場し、「三幕目になると、水が飛んでまいりますので」とビニールシートを配られました。
確かに、本水のシーンがあるとは聞きましたが、水が流れるのは奥だろうし、飛沫が多少くるのかなと予測。

蜀制圧に伴い、新武将が四人登場。関平、周倉、馬良、廖化という麦城落城確定の面々に、先にほろり。
荊州守備の為に去る関羽と玉蘭とが、桃園で拾った桃の花びらを分け合って別れを惜しむシーンにもほろり。

孫権の策に乗り、騙まし討ちを決意する曹操は顔色が真っ青なんですが、迫力あって怖い。
でもって、ひたすらにダークなことを思いつく上に何が起こっても口調が冷静な程仲徳が、大変にカッコいい。
関羽は程仲徳と陸遜の作戦にハメられることになるのですが、この二人のタッグは性質が悪いと思います。
留守を預かった張飛が部下に裏切られる直前で、暴れ者のシーンが出るのが唐突すぎ。今までのコミカルさからして、違和感の方が大きかった。これだけは、もう少し複線が欲しかった感じ。
さて、荊州城の民衆五万人が孫権軍の人質になったのと、関羽の命を引き換えるという条件はダーク程仲徳、本領発揮のなすところらしい。
関羽は荊州守りの要だから、条件は飲まれず、劉備軍兵士の家族がほとんどである人質は見捨てられることになり、必然的に兵士の心も劉備軍から離れていく、という作戦なんだそう。
命旦夕でなりふり構わないと決めた曹操はともかく、押し切られる孫権は少々情けない。
陸遜も、自分で策略を立てるシーンというと曹操と手を結ぶ発案くらいだったし、全般的に小物っぽくまとまってしまったのは残念。

程仲徳の邪悪な作戦は読み間違い、関羽は人質と引き換えに自分の命を差し出すことを決意するのですが。
別れの宴で、湿っぽくなった空気を明るくするために、好きな人を言い合おうよ、ということに。
関平が廖化の娘が好きと告白すると、後ろで泣いてる兵がいたり、廖化の想い人が馬良の嫁さんだったり、大笑いポイント多数。
関羽が、玉蘭(劉備のことだが、誰も知らない)のことを語るところがクライマックスになるのですが、「その名の通り、蘭のような人ですか?」と尋ねられて「桃の花のようなお人じゃ」と返した関羽が幸せそうなだけに切なかった。

許昌では曹操が死を迎えていて、その遺体に作戦の失敗を告げる程仲徳。
「完敗です」
と自分の首をかき斬ってしまって残念。彼には乗り越えて更にダークなことを思いついて頂きたかった(何を期待しているのだか)。
ですが、全体的に程仲徳はとても良かったです。

一度は劉備の出兵を止める孔明ですが、「私は、男でも女でもない、鬼になる!」と言い切られて諦めます。うう、切ない。
そして、夷陵の戦い。
火を放たれ、絶対絶命の劉備軍を、神となった関羽が雨を降らせて救います。そして、傷ついた劉備を抱え上げて天へ。
ここが有名な宙乗りシーンだったのですが、気を失ったままの玉蘭の手から桃の花びらが。
残された地上では、大雨になる中、関平が大暴れ。
この雨が本水でした。降ってるのは確かに舞台奥なんですが、関平がぱっと蹴り上げると、その水がホントに飛んでくる。ビニールシート無いと、本当に濡れる。
一番前までとはいえ、舞台奥から舞台外まで飛ばしてしまう勢いに感激。
花道も見栄をきって水を豪快に飛ばしながらの退場で、関平、文句無しにかっこよかった!

最後は白帝城。
「もう、終わりのようだ」
と告げる劉備に、首を横に振る孔明。関羽が登場し、無言で孔明の進むべき先を指差す。
自分がやるしかないと悟る孔明。
「もう一度、御手に触れてもいいですか?」
劉備の手を握った孔明は、
「母を思い出す手です」
劉備が化け物のように老けないので忘れてたが、そういえば二十歳差でした。出蘆のとこで、一言だけ言ってるだけだったので、私も失念してました。
おいおい母はないだろ、せめて姉くらいにしとけなどと、くだらないツッコミをしてたのは、泣かないようにです。
だって、また、孔明は一人で背負っちゃいましたよ。

孔明が立ち去ってから、関羽は劉備に、
「もう玉蘭に戻っていい。自分たちの夢の行く末を見守ろうぞ」
やっと、一緒になれた二人でした。


幕の後、カーテンコールがあるのですが、劇中では男の格好しかしなかった玉蘭が女性の着物を着て関羽と寄り添っているのは幸せそうでよかったです。
切なかったのは、孔明が一人だけ年をとっていたこと。↓
年をめした孔明
ああ、本当に一人で背負うのだな、と。
趙雲がいればな、と思ってしまったのは軍師贔屓だから仕方ない。
他は開放された笑みがあったのですが、孔明だけは真顔だったのも刹那さ倍増でした。

IIの孔明編決定だそうなので、来年、どんな孔明が舞台に立つのか楽しみではあります。
長いけど、あっという間な四時間半でした。



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