□ おとうとがやってきた
弟が生まれるのよ。
そう言われたって、ピンとくる訳がない。
なんせ、ジョンは弟がどんなモノかわからない。
だから、大好きで物知りな兄の袖を引く。
「ねぇ、ねぇ、スコット。おとうとってなあに?」
ヒトツ瞬いたスコットは、すぐににっこりと笑って返してくれた。
「弟っていうのはね、僕にとってはジョンのことだよ。もうすぐ、新しい弟もやってくるね」
スコットにとってのジョンが、弟。
これは、大変なことが起こった。
ジョンは驚愕のあまりに目を大きく見開いたままになる。
今度は、スコットが驚いたらしい。
「ジョン?どうかした?」
どうかしたって?したに決まってる。
だって弟っていうのは、スコットにとってのジョンということは、だ。
大事な大事なお兄ちゃんや、優しいお母さん、いつも忙しいお父さんを独り占めする立場ではないか。
それはそれはもう幸せであったのに、それを奪う存在がやってくるとは。
これは、大変な脅威と言わずになんと言おう?
難しい顔になったジョンに、スコットはにっこりと笑いかける。
「これで、ジョンも一緒にお兄ちゃんだな」
へ、とジョンは目を瞬かせる。
「いっしょ?」
「うん、僕とジョンと、一緒に赤ちゃんのお兄ちゃん、そうだろ?」
何度も何度も、目を瞬かせる。
「ぼく、スコットといっしょ?」
「うん、一緒。でも、ジョンが僕の弟っていうのは、変わらないよ」
さら、と撫でてくれる手は、確かにいつもと変わらない。
独り占め、は出来なくなるのかもしれないけれど。
スコットの弟という幸せな立場は変わらず、そして、スコットと一緒にお兄ちゃんになれる、とは。
これは、悪くないのでは。
「うん、ぼくもおにいちゃんだね」
大きく頷けば、スコットの笑みが大きくなる。
「一緒にかわいがろうな」
「うん」
かわいがる、というのがどういうのかはわかっている。なんせ、今までたっぷりとスコットに可愛がってもらっているのだから。
そうして、しばらくして。
バージル、と名付けられた黒髪の赤ちゃんがやってくる。
とてもとても小さくて、ふわふわとして、触れただけで壊れてしまいそうな小さな小さな存在。
「よろしく、バージル」
笑って告げるスコットに倣って、ジョンも告げる。
「ばーじる、よろしく」
にこ、と笑うスコットと母親に、間違っていないと教えられて嬉しい。
「さ、ジョンもだっこしてあげてちょうだい」
そっと手渡されて、おっかなびっくりだっこする。
おそるおそるなのに、手の中の小さな存在は、ふわあ、と笑う。
うわあ、と思う。
自分とは、髪も目の色も違うけれど。愛しい、大事、それだけではない言葉にならない想いがぶわっと広がっていく。
「ばーじる」
呟くように呼べば、笑みはますます大きくなる。
「お、なつかれたな」
スコットが笑えば、バージルも笑う。
ああ、弟というのはこんなに愛しいモノなのだ、とジョンは知る。
スコットは自分にもこんな暖かい気持ちを抱いていてくれるのだろう。なんて幸せなことなんだろう。
ジョンは、たくさんの幸せを噛みしめつつ、小さな存在をそっと抱きしめる。
2016.05.26
■ postscript
#一番目にリプきたキャラを幼児化し二番目にリプきたキャラにだっこさせる、というタグより、JさんがちっちゃいVさんだっこ。
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