□ 君を待ってる
とある日。
3号から降りてラウンジへと顔を出したアランは、ぱちぱち、と、何度か瞬きをする。
やはり、見間違いではないらしい。
「あれぇ、ジョン」
「ああ、アラン、お帰り。今日のレスキューはいい仕事してたな」
いつもは宇宙に常駐して、どんなに困難な任務を果たしてもホロであっさりと、よくやった程度なのに。
けれど、やはり直接言ってもらうことの方が嬉しくて、アランは笑み崩れる。
「うん、ただいま!へへー、ありがとー!!」
素直に告げれば、ジョンは、ふい、と目線をそらしてしまう。
苦笑しつつ、スコットが笑いかけてくれる。
「本当に、よくやったよ。ありがとう、アラン」
ふわ、と降りてくる暖かい手に、アランは満足に目を細める。
また、別の日。
レスキューから戻ったゴードンは、ラウンジに顔を出したところで、疲れを忘れて声をあげる。
「ジョン、降りてきてたんだ?」
「ああ、お帰り、ゴードン。今日は負担をかけすぎて悪かった」
なんのことかは、すぐ理解出来る。
深海に近い場所でのレスキューが連続したのだ。かなり際どくもあった。
が、ゴードンはあっさり笑う。
「ジョンは悪くないでしょ、だってレスキューの場所は選べないじゃない」
言えば、ジョンも苦笑を浮かべる。
「ああ、そうだな。だが、どちらもしてのけてくれて助かった、ありがとう」
「少しは僕のこと見直してくれた?なーんてね、ま、これからも海のことは僕に任せてよ」
胸をはれば、ジョンの表情も少し緩む。
「ああ、頼りにしてる」
ジョンにしては珍しい言葉に、ゴードンも笑う。
それから、しばらくして。
レスキューを終えて帰還する1号から、5号へと通信が入る。
『ジョン、今日は降りてくるか?』
「今日は全部順調だっただろう、降りる理由はない」
あっさりと返したはずだったのに、なぜかスコットの顔には苦笑が浮かぶ。
『島はお前の家なんだから、帰るのに理由なんていらないぞ?』
「スコット、僕はコチラの方が性に合うと言っているよね?」
少しイラつきながら返すジョンに、スコットは小さく首を傾げる。
『わかってる、けれど、ソレとコレとはちょっと違うと思うな』
「意味が分からない」
ばっさりと切り捨てて通信を切ろうとしたのだが。
『そうか?でも、僕は待ってるぞ』
さらりと告げられて、スコットの方から通信は切れる。
少しだけむっとした顔をしていれば、だ。他ならぬEOSに降りることを勧められる。
「今のジョンは、降りた方がいいと思う」
なんだかんだで、ジョンは甘いのだ。特に、誰より尊敬する兄と、生み出してしまったAIのEOSには。
だから、ため息交じりに返す。
「わかった、降りるよ」
そうして、8分の降下時間が過ぎて。
島の宇宙エレベーター乗降口から降りてみたらば、だ。
なんと、とうに帰還しているはずのスコットが立っているではないか。
そして、にこり、と笑う。
「お帰り、ジョン。御疲れ様」
ふわり、と頭に乗る手を、振り払うことは出来ない。
そう、この言葉が聞きたかった。告げるのではなくて。
それを、イチバン聞きたかった人から告げられて、ふわふわと頭を撫でてくれる手までついてきて。
すっかり満足したジョンは、一通りが終わったところですっきりとした笑みを返す。
「ありがとう、スコット。じゃあ、僕は戻るよ」
「皆に会っていけばいいのに?」
「いつ、コールが入るかわからないから」
返せば、スコットはあっさりと頷く。
「わかった、また、いつでも降りておいで」
「ああ」
今までよりもずっと軽くなった心を抱えて、ジョンは宇宙エレベーターに乗り込む。
2016.10.06
■ postscript
#リプ来たお題かセリフでワンシーンを書く、という気まぐれタグその2で、檜さんよりいただいた「ここはお前の家なんだから、帰るのに理由なんていらないんだぞ?」