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■■■皇子の始末書■■■
カールの表情は真剣そのものだ。
今なら、視線の先が射ぬかれても、納得してしまいそうな気がする。 そんなことを考えながらも、目を丸くして見つめ返すフランツに、カールはくり返す。 「親衛隊をまかされて、すぐのこの失態。罰がなければ示しがつかない」 初めての親衛隊隊長代理ということで気負いすぎているとは思うが、言っていること正論だ。 他ならぬカールだからこそ、今、ルシュテット皇王代理の権限を持っているのがフランツだからこそ、上げ足をとっていると言う方がふさわしい些細なことでも、見逃すわけにはいかない。 同じ年に生まれた異母兄弟は、兄弟というより親友同然に育った。父皇王は、徹底して正妃の子であるフランツを皇太子として、側室の子であるカールを補佐役として育ててきた。二人とも、それで納得している。 が、周囲はそうはいかない。城内一部に、リスティア人とのハーフであるフランツではなく、生粋のルシュテット人であるカールを皇太子に据えようとする動きがあるのははっきりとしている。 しかもその首領が側室当人であり、カールの母親なのだから、始末に負えない。 「示しか」 カールの言葉を繰り返して、フランツは腕を組む。正論だ、とは思うが、罪状と呼ぶのはあまりに大げさな些細な失態だ。 失態という言葉も大仰かもしれない。 でも、相手はそれすらも見逃したと、鬼の首を取ったように騒ぐのも目に見えている。 ようするに、力量が試されているわけだ。 国内の混乱を収める方向に向けつつ、かといって処罰として不当なものであってはならない、という条件を満たせという課題がつきつけられている、ということなのだから。 しょっぱなから難儀な課題が来たものだ、というよりは今後は常に手を変え品を変え現れる同一の問題に悩まされることになるという序章でしかないと理解するのが正しい。 「そうだな、始末書を書いてもらおうか」 「始末書?」 フランツが笑顔を浮かべたのと対照的に、カールは怪訝そうに首を傾げる。 「本来なら口頭注意くらいなんだろうけど、書面として残ってれば永遠だろ?常に閲覧出来るようにしてあるから、ぼちぼちと広がるだろうしね」 「なるほど、書面か、うん、わかった」 罰のはずなのだが、カールは表情を明るくすると背を向ける。 どこに書面があるかどうかとかは知ってるのだろうかと思うが、適宜どうにかするだろう。 辛いのは、カールの方だ。 ほぼ時を同じくして生まれて来たのに、すでに国を継ぐ者は決まっていて、兄弟のはずなのに将来は臣下として仕えろ、と言うのだから。 それだけではなく、場合によっては実の親と対峙すると心に決めているようだ。 どんな形になるのであれ、誰よりも気心が知れているという関係だけは崩れないように。 望むのであれば、相応の努力は惜しめない。 フランツも、まっすぐに前を向いて歩き出す。 〜fin. 2006.09.27 A Midsummer Night's Labyrinth 〜The letter of apology written by prince〜
■ postscript
拾五万打記念阿弥陀企画より、フランツ&カールで「初めての始末書」。 始末書を書くとしたらどちらか、と考えた末、カールになりました。 お題としては初めてなので、その後があったのかどうかが少々気にならないでもありません。 □ 月光楽園 月亮 □ Copyright Yueliang All Right Reserved. □ |