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■■■鮮やかな秋■■■
アーマノイドたちにとどめを刺したのは、ほかならぬ自分たちだ。
その事実は、絶対に忘れることはない。 慰霊祭を見つめる六人の視線は、まっすぐで、どこか痛い。 最初に伸びをしてみせたのは麗花だ。 「さーてと、シケてるのは、ここまで!」 笑顔で、五人を見回す。 「せっかく天気もいいんだしさ、どっか行こうよ」 忍が頷いて、なし崩し的にツーリングということになる。 バイク好きの俊を案内役に、ジョーたちがバイクで、そして忍が亮を乗せて続く。 だいぶ走ったところで、俊がぐんとスピードを上げてリードを取る。一瞬、ジョーが微妙な蛇行を見せてからそれに続く。 須于も麗花も違和感を感じないほどの微かなブレだったのだが、忍が亮へと視線をやる。亮も、忍の視線に気付いて窓の外から、忍の方へと視線を向ける。 「俊オススメの場所でも思い出したかな」 「そうですね」 俊が勝手に進路変更したのに違いない。そうでなければ、ジョーが迷って蛇行などするわけがない。 亮があっさりと頷いたのに、忍は思わず、くすり、と笑う。 いくらか不思議そうに亮が首を傾げる。 「やっぱり気付いてたな、と思って」 「やはり、ですか?」 亮は、いくらか困惑気味だ。 その困惑の正確な意味をとって、忍は答える。 「俺だって気付いてるんだから、お互い様だぜ?気楽でいいよ、亮がいてくれると」 「…………」 なんと答えていいのかわからないらしく、亮は口をつぐむ。珍しい多弁さで、忍は続ける。 「別に、気付きたくて気付くわけじゃないけど、目に付く。でも、他の人以上に気付くのって、回りにとってはあまり気分のいいもんでもない」 「……そう、ですね」 亮は静かに頷く。 相変わらず困惑気味の顔のまま、亮は、また、窓の外へと視線をやる。 さらりと風に流されて行く髪の向こうに見え隠れする表情は、一緒にされて迷惑をしているというよりは、どう答えればいいのかわからずにいるらしい。 ややしばしの間の後、亮は、忍へと向き直ってぽつり、と告げる。 「気付かずに、不快な思いをさせていましたら、指摘してくださると助かります」 「そりゃ、俺もだな」 顔を見合わせて、どちらからともなく笑みを浮かべる。 そんな忍たちの車の前を行く麗花が、ちょっとスピードを上げて俊と並ぶ。 「ねー、どこまで行くの?かなり走ってない?」 疲れてきたというよりは、どこに連れてくつもりなのかと興味津々の表情だ。 「あー、ついて来りゃわかるっての」 面倒くさそうな返事に、麗花はいくばくか低い声で返事をやる。 「へーぇ?」 その声で、自分が剣呑にも取れる返事を返したのだと気付いたらしい。マズイ、という顔つきで視線をやると、にやり、と笑み返される。 「随分な自信じゃない、さぞっかしすごーいところに連れてってくれるんでしょうねぇー」 ぐ、と詰まってしまうのが、俊自身も情けなかったのだろう。 ぷい、とそっぽを向くと、またスピードを上げる。 その様子を見て、忍がいきなり、ぐんとスピードを上げる。 なんなく麗花たちの合間をすりぬけ、俊と並ぶ。 「おい、スピード上げすぎ!お前しか、道知らないんだぞ?」 その声に、俊の頬がかすかに染まって、大人しくスピードは落ちる。 忍も、何事も無かったかのように最後尾につける。 麗花と須于は、どちらからともなく、顔を見合わせる。 それから、くすり、と笑って肩をすくめる。 ジョーは、そんな様子を見ているのかいないのか、全く車間を変えずに俊の後をついて行く。 何気ないようだが、先程からスピードが安定しない俊に合わせているのだから、技量はかなりだ。 その方へと感心したような視線をやってから、須于は忍と並ぶ。 「どうかした?」 「随分と人里離れて来たって感じだわ」 確かに、アーマノイド慰霊祭が行われた場所自体、人家が少ないところだったのだが、今走っている場所は人が住んでいる気配がほとんどない。 それでいて、道路は最近舗装し直されている。 なんとなくアンバランスな印象なのだろう。 手元の小型端末を覗き込んでいた亮が、静かな笑みを向ける。 「ついていけば、わかるようですよ」 どうやら亮には、俊の目的地がわかったらしい。が、当人が口を割らないうちは言う気はないようだ。 軽く肩をすくめて忍が笑みを浮かべる。 「ま、悪いところではなさそうだし」 「そうね」 にこり、と須于も笑み返す。 それから、さらに走って、カーブを切ったところの路側帯で俊はバイクを止める。 「すっごーい!」 メットを取ったなり声を上げたのは麗花だ。 須于も、大きく頷く。 「ほんと、すごいわ」 目前に広がっているのは、山吹、黄色、橙、朱、赤、海老茶。見渡す限りの紅葉だ。 感心と困惑が入り混じった表情をしているのは、ジョー。 「だが……平地でも、ほとんど散りかかっているのに?」 「ともかく、穴場だろうが」 理由はわからないらしく、俊は軽く口を尖らせる。 口の端に笑みを浮かべたのは忍だ。 「あの向こうに工場とかあるみたいだし、こっちは山だし、そんなあたりも関係あるんだろ」 五人の視線が自分に集中していることに気付いた亮は、一度、瞬きをする。 「ここがいま紅葉している理由ですか?」 「知ってるんでしょ?」 決め付けで言ってのけて、麗花はにこり、と笑う。 「忍の推測で当たっています。先にある工業地帯の二十四時間体制生産による影響で、かなり暖められた周囲の大気が山に遮られて動けず、一帯の気温が他の場所よりも高くなっているせいです」 理路整然と口にする亮へと、須于が首を傾げる。 「一段と鮮やかな気がするけど、周囲がもう散っているからかしら?」 「条件が整っているのもあるでしょう」 五人の視線が、相変わらず問いかけているままなので、亮は続ける。 「色鮮やかな紅葉の条件は、充分な日照、五度前後の最低気温、適度な水分、ゆるやかな温度変化です。このうち、日照と水分に関しては他の場所と変わりありませんが、温度に関しては先ほどの通り、特異な環境です。恐らくは、周囲よりも緩やかに温度変化をしていて、それがいい影響を与えているのでしょうね」 「なるほどな、穴場にもちゃんとワケがある、か」 前から知っている場所だが、理由までは知らなかった俊が、感心した声で呟きつつ景色へと視線をやる。 「しっかし、俊スゴイね、こんなとこ、普通知らないでしょ」 麗花が、にまり、と笑って見ていることに気付いて、俊はいくらか驚いた顔つきになりつつ、肩をすくめる。 「まぁな、あんま知られてはいねぇんじゃねぇの?俺も、たまたま見つけただけだし」 「いいのー、私たちに教えちゃって?」 「別に、減るもんじゃねぇだろ」 イタズラっぽい問いに、反射的に答えるのに、須于がくすり、と笑う。 「なんだよ、なんかおかしいかよ?」 「ううん、麗花が言いたかったのは、俊の秘密の場所に私たちが押しかけても良かったのかってことじゃないのかな、って思って」 幼馴染のはずの忍も知らないようだったから、今までは俊一人で来ていたに違いない。 直截に言われて、俊の眼が丸くなる。 「だって、お前が言い出したんだろ、イイ所ないかって?!」 「うん、言ったよ」 あっさりと認めてから、イタズラっぽかったモノから鮮やかな笑みへと変わる。 「ありがとうね」 なんと返事していいかわからずに、言葉に詰まっている俊の隣で、忍が伸びをする。 「ほーんと、すっげ気持ちいいよなぁ」 「ああ、走ったかいはある」 ジョーも、ぼそり、と言う。 麗花と須于が、笑み交わす。 「ねー、桜だけじゃなくって紅葉も見逃したかーって感じだったのに」 「これで十二分に取り返したわね」 「ええ、本当に」 亮も、ゆるやかな笑みを浮かべる。 そんな五人の笑顔を見て、俊も景色へと視線を戻す。 ややしばらくしてから、ぼそり、と言う。 「気に入ってよかったよ」 鮮やかな景色は、今は六人だけのモノだ。 〜fin. 2004.03.13 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Beautiful Fall〜
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