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■■■正義の味方参上?!■■■
「珍しいなぁ?優がそんな顔してんの」
テレビから入り口へと視線をやった壱矢が軽く首を傾げる。雰囲気も口調も粗野だが、人を観察することにかけては人一倍の彼は確かにリーダー向きだ。 その声に、新聞リーダー用の端末を改造していた尚は、足元に散らばした細かいチップを整理する手を休めずに、その切れ長な瞳を横目によこす。 「珍しいこともあるもんだ」 口調は、どこか笑みを含んでいる。壱矢は苦笑を浮かべる。 「珍しいからって喜ぶなって」 「あっれえ?おそろいでどうしたよ?」 優が口を開く前に、背後から声が加わる。 「あ、まさた……」 振り返ると同時に「あ」のカタチに丸く開いた優の口は、ひらがな一文字ごとに小さくなっていき、最後の「か」の字は不明瞭で聞き取れないままに閉じられる。 正隆の人より少々長い髪は、実にミゴトな緑色と化している。 「許可取ったからってやり過ぎだよねぇ、どこのワカメが歩いてきたのかって思ったよ」 六人中、最も背の高い部類である正隆の後ろから、最も背が低くて童顔の弘太郎が顔を出す。 「ワカメ!」 弘太郎の言いえて妙な毒舌に、壱矢と尚が笑い出す。 「あ!なんだよ、こんなイイ色なのに!」 正隆が抗議するが、二人はワカメがかなりツボであったらしく、笑い転げている。 「弘太郎!余計なこと言いやがって!」 「ふふん、俺は感じたままを述べただけだもんね」 「あのなっ」 更に何か言おうとした正隆は、弘太郎の上からの視線に気付く。 おそらくは台所になにかを取りに来たであろう冬吾は、いつも通りの無表情の無言のまま、しばし正隆を見つめていたが、やがて、ぼそりと言う。 「なんだ、そのワ力メ頭は」 壱矢と尚はもちろんのこと、弘太郎も大笑いになる。 「うっわー!満を持しての色なのにっ!」 遊撃隊配属以来、目立ち過ぎないようにと、せいぜい軽めの茶が限度とされてた正隆にとっては、やっとの解禁なのだ。その台詞はあながち大げさでもないのだろう。 「ワカメ決定だね、冬吾が言うんだから間違いないよ」 「貴重な百語のヒトツだからな、値千金」 弘太郎の言葉に、尚がトドメを刺す。 『冬吾の貴重な百語』とは、冬吾が文字通りの無口で、尚をもってして、「俺って無口じゃなかったんだな」と言わしめたほどの沈黙度を誇っていることから来ている単語で、作ったのは他ならぬ正隆だ。ようは、『第1遊撃隊』の任務期間である一年間に、仕事関連以外で口をきくのは百語ほどではないのか、という意味。もっとも、ここ最近は、どちらかというと冗談を口にしない冬吾に言われたらトドメという意味になりつつあるのだが。 ついでを言えば、尚も無口を返上しつつある。 それはそうとして、だ。 正隆の髪の色をみて、口を閉ざしてしまったきり、優が固まったままであることに壱矢が気付く。 「優、なんかワカメだとヤバいことでも起こったか?」 「うーん、まぁ、頭の使いどころっていうか……ワカメか」 呆然としている模様だが、ワカメだけはきっちりとインプットされているらしい。正隆の肩が、がくり、と落ちる。 「許可出したの僕だしね、ま、考えるしかないな」 微苦笑を浮かべつつ、ようやく立ち直ったらしい優は、ぽん、とヒトツ正隆の肩を叩く。 「いや、なかなか似合ってると思うよ、ワカメ」 「いやそれ、全くフォローになってねぇ」 「っていうか、トドメだよね、更に」 にこやかに弘太郎。さらに正隆の肩が落ちる。 壱矢は笑いを必死で耐えてる顔で、優に尋ねる。 「で、何が起こったって?」 「あ、そうだ、ワカメがマズいんだよね」 弘太郎も首を傾げる。冬吾の眉が軽く寄る。 「事件か」 「それはないだろう、緊急通信入ってないし」 相変わらず、ニュース端末を組み上げながら尚が言う。視線は、一見録画用のデッキに見えるモノだ。実際にそうなのだが、総司令部からの通信が入った時に反応するようにしてあるのだ。 「明日、合同訓練が行われることになってね、総司令官から、姿を見せろと言われてるんだよ」 あっさりと優。 「姿を見せろ?極秘部隊なのに?」 壱矢が、皆の疑問を代表して口にする。 「そう。ココ最近、風の噂程度には『遊撃隊』の存在は知られてきているから、ここで喧伝しておけということだね。無論、正体はワレたらダメだよ」 「あー、それでワカメかぁ」 弘太郎が、正隆の顔を覗き込む。 「こりゃ、覚えるなって方が無理だな。行き交った人は誰でも恐怖ワカメ頭男現る!って思うよ」 「ワカメと罵られた挙句、数時間で染め直せ、と?」 ワカメ色のわんこのような顔つきで、正隆が優へと向き直る。 「……ああ、そうか、なるほど」 まじまじと優は、正隆の頭を見ながら、なかば独り言のように言う。 「いや、それは無しの方向で」 その様子に、ぴく、としたのは壱矢だ。 「まさか?」 「さすが、察しがいいね。大当たり」 壱矢の回答を聞く前に、優が微笑む。人一倍察しのいい男は、優がなにを不気味に納得しているのか、きちんと察しているとわかっているわけだ。 そのやり取りに、不可思議そうに尚が顔を上げ、正隆と弘太郎が顔を見合わせ、冬吾の眉が軽く寄る。 優が、はっきりと笑みを浮かべる。 「明日は、正義の味方参上、とシャレこもう」 「やっぱり……」 壱矢の肩が、がくり、と落ちる。 翌日、あまりにも鮮やかにダントツで目的を果たして見せた少人数部隊のことで、総司令部内は大騒ぎになる。 その能力の高さと、そしてあまりに目立つ五色の頭の色に。 無論、顔を覚えている人間は、一人としていなかったらしい。 〜fin. 2004.05.15 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Heroes are come?!〜 □ 月光楽園 月亮 □ Copyright Yueliang All Right Reserved. □ |