■■■日曜日の風景■■■
なんとなく、ぼーっとして過ごしたい休日もある。
秋も深まってきて窓から見える景色は色とりどりで、日差しはうららか。 居間にある大きな窓によりかかって本を広げているのは須于。忍と俊は、ソファにのっぺりとしながら、どうということもないテレビ番組をひやかしている。 台所の方から、亮がお茶を煎れてくれている音がしている。 「お茶と言えば……お茶うけだよな」 ぽつり、と言ったのは忍。リモコンに手を伸ばしながら、俊も頷く。 「だな、茶菓子だよな」 で、テレビはなぜか、料理番組に切り替わる。昼を食べたばかりだというのに、もうすでに小腹は空いてるらしい。 「うまそう〜」 暖かそうな湯気の上がるカップをテーブルに置きながら、亮もテレビを見やる。 「ああ……」 なにやら、中途半端な声を出すものだから、忍と俊は怪訝そうな視線を向けた。 「あれが、食べたいんですか?」 亮が、軽く首を傾げる。 テレビで作っているのは、小さなパイにカスタードクリームと生クリームを絞ってフルーツをたっぷりと乗せたものだ。あれだけ贅沢なのは、ケーキ屋でもなかなかお目にかかれそうにない。 「食えるものならなぁ」 忍が言い、俊も頷く。 手間がかかりそうなのは、忍たちにだってわかる。が、亮はあっさりと言った。 「じゃ、作りましょうか」 「え、ホントに?!」 思わず、目が輝いてしまう。ついでに、本を読んでいたはずの須于の視線も上がっていたコトも付け加えておくべきだろう。 亮が器用なのは普段の食事からも知れるが、なんといっても知沙友のために作ったケーキは忘れられない。デコレーションといい味といい、言うこと無しだった。 「でもさ、パイって寝かさなきゃいけないんだろ?」 「これ、再放送ですよ」 おかわり用のポットにティーコージーをかぶせて亮は立ちあがる。 「先週、同じコトを麗花が言っていたので、パイまでは作ったんですよ」 言いながら、冷凍庫をさぐっている。 そこまで言われれば、どういうことか、もちろんわかる。 パイ生地を作ったまではよかったが、焼くタイミングは逸していたということだ。 「じゃ、焼けばすぐあるってこと?」 返事のかわりに、亮は、にこりと笑ってみせる。 「わーい!」 「らっきー!」 あからさまに喜びまわる忍と俊のむこうで、須于も口元ににんまりと笑みを浮かべて本に戻る。 それから、二時間ほどして。 あたりには、パイの焼ける香ばしい香りと、カスタードクリームの甘い香りに包まれる。 「おおお〜、たまらん」 思わず声を上げた俊たちの目の前に、パイの乗ったお皿が出てくる。 「はい、どうぞ」 紅茶もついているあたり、いたれりつくせりといったところ。 デコレーションを手伝っていた須于は、麗花の分のプレートと、ジョーと食べる為のプレートを手にして台所を後にする。 あまり甘いモノが得意ではないジョーも、亮が作ったのならよく食べるのだ。 テレビに飽きた二人は、それぞれ雑誌やら紙の新聞やらを手にしていたが、パイに手を伸ばす。 パイの上にはたっぷりのカスタード、そして桃かん、パイナップル、そして薄いチョコレートをシガレット状に巻いたモノ。 「すっげー」 と姿を愛でたら、がば、とばかりにかぶりつき、 「ふひゃむひゃ!」 言葉にならない歓声をあげるのに、亮はおかしそうに肩をすくめる。 大口あいて食べるものだから、もうすでに忍も俊も二個目に突入しているようだ。 亮は、残りのパイにデコレーションし終えて運んでくる。 忍たちの食欲はよくわかっているから、こんな大きさがあるのでも三つか四つはぺろりといってしまう。しかも、さっきの分は須于たちが持っていったので、あと一個しかない。 追加をテーブルに置こうとした亮は、様子がおかしいことに気付いて止まる。 怪訝そうに、少し首を傾げる。 なにやら、緊迫した空気が流れている。 忍も俊も、手にしているモノは見ていない。 よくよく見てみると、皿の上に一個だけあるパイを挟んで、虎視眈々と狙っているのだ。 じゃんけんかなにかで勝負をつければよさそうなものだが、どうやら早い者勝ちの法則らしい。手を出して奪取した者のモノになるわけだ。 かなり、二人とも真剣だ。 亮は、吹き出すのをかろうじてこらえる。 どうやら、背後に亮が立っているのにも気付いてないらしい。 さて、一個残ったパイは、どちらのモノになるのか。 亮はしばらく観察することに決め込んで、そっとキッチンの椅子に腰掛ける。 香りのよい紅茶を煎れたカップを手にする。 まだ、忍と俊はにらみ合ったままだ。 いつ頃決着がつくのやら。 休日の午後は、ゆっくりのんびり過ぎていく。 〜fin〜 2002.01.25 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Only one?〜
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