『 いまという瞬間 1 』 「本日のターゲットぉ、激写!」 弾んだ声と共に、シャッターの切れる音。 いつもどおりバイクで出かけようとしてた俊は、一瞬目を丸くしてたが、すぐににやりと笑い返す。 「虎視眈々とシャッターチャンスを狙う姫君、激写返しッ」 掌に隠れてしまいそうなほど小さいデジカメのフラッシュが光る。 カメラを構えてていた麗花が、はじけるように笑う。 「かわいく撮ってよね?」 「さてなぁ?写真って正直だからなぁ?」 「なぁんだ、じゃ、お願いしなくてもかわいく撮れてるってわけね、心配して損しちゃったー」 大げさに肩をすくめながら、麗花がくるりと背を向ける。 俊は、あいた口がふさがらない。 どうやら、やはり麗花の方が一枚上手のようである。 「ほんじゃ、気をつけてねぇ!」 ひらひらっと肩口で手を振ると、ぱたぱたっと階段を上がっていってしまう。 俊も肩をすくめると、デジカメをポケットにおさめて、メットを被る。 いつもどおりに、飛び出していく。 『第3遊撃隊』として組織されてから、一年経った頃からだろうか。 イベントがあったときには、写真を撮るようになった。例えば、誕生パーティーをした、とか、そういうのだ。 それが、ここ最近。 大幅増量している。 普段の顔って、あんまり撮らないよねぇ、という一言から始まった、写真撮り合い合戦。 それぞれの撮った写真を並べてみると、視点の違いが一目瞭然で、面白い。 らしいよね、という表情を捕まえるのが上手いのは、麗花。 忍は、いい笑顔を撮ることが多い。 きっと、忍につられて、皆笑ってることが多いのだ。 須于が撮った写真は、皆の日常が垣間見えるのが多い。一人で写っているのよりも、断然、複数が多いのも、須于。 まっすぐな視線を捕らえているのは、ジョーの写真。 俊の写真は、食べ物と一緒が多い。当人曰く、「美味いモノ食ってる時って、幸せなもんだろ」 そして、亮が撮った写真は、驚くくらいに、優しい表情をしている。 撮られた方が、思わず照れてしまうくらいに。 「機械仕掛けの星なんですよ」 亮が、そう言った。 そして、『第3遊撃隊』は、切り札なのだ。 無意識に、次にくる任務は厳しいかもしれない、と六人ともが思っているのかもしれない。 『緋闇石』の時よりも、やっかいなことになるかもしれない。 全てを捨てなくては、ならないかもしれない。 自分たちのいた証拠が、欲しいわけじゃないと思う。 ただ、こんな顔して笑ったり、怒ったり、泣いたりしてる。 当たり前の日常が、妙に眩しく見えてるだけだ。 それだけだと思うけど。 ふと見えた景色、ふと目が合った瞬間。 なにげなく、シャッターを切る。 幸せな時間を、ほんの少しだけ。 カタチにして、とって置くために。 2003.04.06 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Grab shots of Labyrinth I〜 |