『 草原にて 』 今年もまた、最果ての地に夏が来た。 朔哉は、どさり、と腰を下して、大きく息を吸う。 生命の香りがする、と思う。 刹那の間であるからこそ、より一層、その香りは高いのだろう。 見渡す限りに、みなぎる生命たち。 見上げれば、風が走り行く青い空。 この国で、最も美しい場所は夏のこの場所ではないか。 血で汚さねばならぬとは、なんとバカらしいことだろう? 風と共にある彼らにこそこの場は似合う。 この星が、宇宙が生み出した『地球』であったのならば、とうに馬首を返している。 でも、そうは出来ない。 この星は、人が造り上げた惑星だから。 彼らが祀るモノの中に、過ぎたる科学でもって造り上げたモノが混じっているから。 だから、このまま放っておく訳にはいかない。 ったく、と軽く舌打ちをする。 ご先祖とやらは、大馬鹿ヤロウだ。 なぜ、彼らに高圧的な態度を取ったのか。 彼らとて、この『Aqua』に生きる人々なのに。 特別な者など、どこにもいないのに。 王は、民があって初めて王なのだ。 そんな基本さえ忘れさせたのが、『崩壊戦争』だったのだろうか? それとも、『崩壊戦争』の前の世界がそうであったのか? 朔哉は、軽く首を横に振る。 考えても、せんないことだ。 このアファルイオの王として立った以上は、やるべきコトをしてのけるのみ。 もう一度、大きく息を吸い、香りをいっぱいに胸に満たす。 そして、勢いよく立ち上がると、歩き出す。 2005.02.25 A Midsummer Night's Labyrinth 〜at the lea〜 |