『 独りよがりの笑み 』 一見すると上品な笑みが、マリアの口元に浮かぶ。 「カールとあの汚れた血が一緒に離宮に行ったのですって?まあ、何を企んでいるのかしらねぇ?」 鈴を転がすように美しい声だが、言っていることは物騒きわまり無い。 「あの子を呼び戻して、お話を聞いてみなくてはね。それにしても、何度も教えて差し上げているのに、物分りの悪い子だわねぇ」 ぴたり、と扇が唇にあたる。 「これ以上聞き分けの無いことを言うようなら、いい子になるよう、ちょっとお仕置きしなくてはね。ルシュテット皇王になるという自覚を持ってもらわないとならないし」 映像を止めた雪華は、皮肉な笑みを浮かべる。 「決定的だな」 雪華の前に立っている、どこから見てもルシュテット系の女は、完璧なアファルイオ語で問い返す。 「どうなさいますか?」 雪華は表情を変えないまま、足を組む。 「皇太子は、アルシナドに向かったのに、間違いはないな?」 「はい、チケットは確認済みですし、入国も見届けました」 表向きはルシュテット皇王側室付侍女という立場にある彼女は、はっきりと頷く。 「なら、しばしは様子見だ」 「了解いたしました」 頭を下げた彼女へと、雪華は言葉を重ねる。 「ご苦労だが、目を離さないようにな」 「はい」 再度頷くと、彼女は音も無く消える。 一人になった雪華は、映像の止まったままのモニタへと視線を戻す。 「この根拠の無い自信というのは、どのようにしたら抱けるのか、という点は興味深いが」 皮肉な笑みが大きくなる。 「リスティア総司令部を向こうに回そうなどという荒唐無稽なことを考え付く頭脳だからかな。結末は見えたようなモノなのに、わからないのだから」 モニタの中の笑みは、あっさりとブラックアウトする。 2005.11.30 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Self-righteous smile〜 |