『 亀の甲より? 』 一見無表情だが、実のところは剣呑な目つきの雪華に、陳大人は糸のよらな目をさらに細める。 「はて、何ぞしたかの?」 「アファルイオの恥になる真似はお控えいただきたいものです」 瞬きをしてから、いくらか首を傾げる。 「ふうむ?スカイハイはありがたくは無いと思うていたが」 「入った後で締められないっていうのなら、存在意義も地に落ちたということです。解散した方がよろしいですよ」 声にならぬ笑いが陳大人の口から漏れる。 「これはなかなかに手厳しいのう。老い先短くなると、我慢もきかなくなるようでの、ああいう船に乗ってみたくなるのよ」 「慰安旅行がてらですか?」 白い視線に、苦笑が浮かぶ。 「ダシにされたようでの」 のらり、と言ってから、付け加える。 「にしても、機嫌が悪いのう?」 「冥土の土産話にするにしたとしても、あまりに考えが足りなすぎます。実際行動に移してしまうくらいだから、考えが至ると期待する方が愚かということですか?」 雪華はまったく堪えた様子も無く返す。 陳大人は、ほんの小さなため息を吐く。 「相変わらず、きついのう。大方、リスティア入国前に乗り込んだのが気に入らんのであろう?」 返事は返らない。 「好好、お前さんに一つカリじゃ」 はじめて、雪華の口元に薄い笑みが浮かぶ。それを見て、陳大人はもう一度、小さなため息を吐く。 「いろいろと高くつく旅じゃったのう」 金銭面でも、カリの面でも、だろう。Le ciel noirが黙っているとは思えない。 「後悔している顔には見えないですが?」 声の無い笑いが、陳大人の口から漏れる。 「なかなか面白いのに出会っての。お前さんは知っておるんじゃろうが。ほれ、迷宮とか言うたか」 微かに大きくなった笑みが、雪華の返事だ。 陳大人は、楽しそうに続ける。 「にしても、あれだけ礼儀を心得ておるとはのう。特にあれじゃ、一人はアファルイオ系かと思うたわい」 一瞬、雪華が盛大に吹き出しそうになったのを堪えたのは、どうやら陳大人に気付かれずに済んだようだ。 2005.12.04 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Wisdom grows with...〜 |