『 作って遊ぼう 』 徹夜明けだけれど、そのまますぐに寝る気にもなれず、居間でお茶になる。 柔らかにあがる湯気を見つめつつ、須于がしみじみと言う。 「やっぱり、落ちつくわね」 「ああ」 こっくりと頷いてから、俊は、はっとした顔で麗花を見やるが、いつものツッコミは来ない。それどころか、何かに気を取られている顔つきだ。 「どうかしたか?」 いくらか首を傾げたのは忍だ。ジョーも軽く眉を寄せている。 「え?」 我に返った麗花は、皆の視線が集まってる理由に思い当たって、にやりと笑う。 「あー、ちょっと考え事しちゃってさ」 「言わんでいい」 反射的に返したのは俊だ。にやりとした麗花の発言は危険と骨の髄に刻んでいるらしい。 麗花の目が細くなる。 「私の声でしゃべらせてやりたい」 「あ、そういうことか」 忍の納得した声で、ジョーにも言いたいことはわかったらしい。 「あの人形か」 佐々木を引きずり出す為のエサにした旧文明産物の人形のことだ。そこまでわかってしまえば、内容も推して知るべし、ということになる。 「愉快な組み合わせだったもんなぁ」 最初の驚きを思い出したのだろう、忍は苦笑する。須于が、お茶を手に首を傾げる。 「あからさまに偽者ってわかるようにしとかなきゃいけなかったからでしょう?」 「わかってるよー、そうじゃなくて、どうしてああいう組み合わせになったのかなーっていう方。下衆のかんぐりってヤツね」 にやりとしたまま言って、手にしたカップを持ち上げる。 「確かに」 不意に聞こえたバスに、麗花の手が止まる。 「え?」 「なぜあの組み合わせなのか、という疑問がもっともだと言ったんだ」 ジョーが、何を驚いているのか、というのがありありとした顔つきで麗花を見やる。まさか、ジョーから同意を得られるとは思っていなかったらしく、麗花は目を見開いたまま、くるり、と忍へと視線をやる。 「声が俊」 またも苦笑が浮かんだ忍の返答に、麗花は大きく頷く。 「そうか、声が俊」 「待て、なぜそこで納得する」 俊のツッコミをあっさりと無視して、須于が亮へと首を傾げてみせる。 「どうして、あんな風にしたの?」 五人の視線に、亮は軽く肩をすくめる。 「皆にまかせていたら、どういう組み合わせになっていましたか?」 返されて、五人は顔を見合わせる。 「内輪のウケ狙いなら、いくらでもトンデモなく出来るけど」 「佐々木さんたちがあり得ない、と思うようなのはダメっていう制限が入るか」 「初対面だから、思い込みは無し、というのもね」 「コトの時の身のこなしは、誰が何やってても違和感無いから、ドレもありだよね」 「では、声に絞られるな」 それぞれに考えを巡らせているらしく、沈黙が落ちる。 ややしばしの間の後。 「無難な線なら、麗花と私を取りかえて、後はランダムよね」 須于の言葉に、四人が頷く。 「亮はこっち混ぜても違和感無いけど、後の選択がつまらなくなるから却下」 麗花の前提の時点で何か違う、と言いかかったのを俊はかろうじて飲み込んで訊ねる。 「で、後はどうする?」 「基本的には、誰があたってもそんなに違和感なさそうだけどな」 言ってから、忍は軽く首を傾げて付け加える。 「話もここらですませた方が無難そうだけど」 「なんでそこで俺を見る!」 という俊の声は、ごくあっさりと無視して、麗花がにこやかに問う。 「ウケ狙いなら?」 「ウケるのは俺らしかいないからな。それこそ、本当になんでもアリだろ」 忍の言葉に領いたジョーは、再度深く頷く。 「ああ、そういうことか」 妙に納得した声に、四人の不思議そうな視線が集まる。 「え?」 「何が?」 忍もぽかんとしているのに、ジョーは軽く目を見開いてから、ちら、と亮を見やる。 「だろう?」 「……はい」 なぜか、微妙に恥ずかしそうに亮は返す。 それを視線で追っていた忍は、ややの間の後、首を傾げる。 「もしかして?」 今度は、亮は困ったような顔つきになる。 忍とジョーは、どちらからともなく顔を見合わせる。口の端が持ちあがったのは、どちらが先だったのか。 「やられた!」 ジョーまで声をたてて笑い出したのに、ぎょっと目を見開いた麗花は、そのままの視線を亮へとむける。 「私レベル?亅 「そんなにセンスありません」 即答に、麗花も爆笑しはじめる。 「…………」 笑いこけている麗花、忍、ジョーと視線を動かした須于は、困ったような顔のままお茶の片付けを始めた亮と一緒に立ち上がる。 「いいですよ」 「二人の方が早いわ」 返したのに亮が素直に頷いたのを見て、気付く。 流しまで来てから、小さく問う。 「麗花レベル?」 「ここらへんにしておいて下さい」 本当に困惑してるらしい顔つきに、須于も吹き出したくなったのをかろうじて堪える。 「私は、上手くいったんじゃないかと思うけど」 亮は軽く頷くと、シンクへと視線を落としてしまう。須于は、少し笑みを大きくする。 一緒に洗い終えた頃には、忍たちも立ち上がっている。 「さて、ちょっと休むか」 いくらかのんびりして、いい感じで眠気がきている。 皆がばらばらと居間を後にするのを背に、茶葉をしまった亮は、振り返っていくらか目を見開く。 俊が、仁王立ちのままでいたのだ。 いくらか、唇がとがっている。 「俺だけ、話が見えないんだけど」 「嫌です」 一人で話が見えないというのは気分のいいものではない。忍たちに訊いても煙に巻かれるだけなので、亮に教えろ、と言ってみたつもりだったのだが。 「嫌って、おい」 瞬殺に、呆然と目を見開く。 否定にしろ、亮からこんな返答とは予測だにしなかった。 よくよく見れば、頬がいくらか染まっている。 「駄目です。わからなくていいです」 懇切丁寧に完膚なきまでに否定して、亮は俊の脇をすり抜ける。 「おい」 「最近、皆、察しが良すぎるんです」 何かに八つ当たりでもするかのように言うと、もう足は止まらない。 結局のところ、俊には、なぜ亮があんなわけのわからない組み合わせにしてのけたのか、さっぱりわからないままだったのだが。 なにやら、いつもでは見られないような表情をしてたのが面白かったので、よしとするか、などと思い直して階段へと向かう。 2006.03.18 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Let's make and play it.〜 |