『 先生はお気に入り? 』
「倉橋くん、今年から担任をしてもらうことになるのは知ってるね。これがクラス名簿だから。くれぐれも、粗相の無いように」 教頭の最後の一言に首を傾げつつ、倉橋栞は名簿を受け取る。 「はぁ」 なんともしまらない返事になってしまったのは仕方あるまい。 新米とは言え、粗相は無いだろう、粗相は、という方にすっかり思考が行ってしまっていたのだから。 席へと戻って、さてと、と名簿を開いてみる。 五十音順だから、最初は「あ」。 天宮健太郎。 なるほど、粗相はこの人にかかっていたのか、と納得する。 ついでに、周囲の教師たちのどことない哀れみの目の謎も、一気に解決だ。 大木、大久保、と続いて、次はか行。 黒木圭吾。 なるほどなるほど、と更に頷く。 立地条件ゆえに、財政界の御曹司なんてのが四六時中在学していて、ここに赴任している教師たちの麻痺しきった感覚をもってしても、どうにもこうにも取り扱いかねている二人が揃い踏み。 そりゃ、教頭始め、皆、どこか哀れみの目で見るに決まっている。 が、それってお前らが仕組んだんだろ、と心の中で毒づく。 自分たちが背負いたくないから、担任を新米に押し付けたわけだ。なにかあった時、先ず最初に首切られるのは担任だから。 それって、あまりに自分と彼らに失礼ではなかろうか。 だって、トラブルが起きると決め付けられているようなモノだ。彼らが、クレーマーだというならともかく、ごく普通に学校に通ってくるだけのはずなのに。 それに、結局のところ、教科によって授業の担当は替わるわけであって、その時に何か起こったら背負うのは担当教師になるのだ。 自分は、ちょいと生活面での背負い分が多いだけである。 でも、それは他の担任を持っている教師だって同じこと。 どっちにしろ、自分にとっては初の体験なわけで、マイペースに行くより他、無いのである。 というわけで、栞は、特に驚いた顔つきでもなく、名簿をぱたりと閉じる。 「倉橋さん、大変なことになりましたね」 「なにがです?」 隣からひっそりとした声で話しかけてきた二年先輩の男性教諭に、栞は不可思議そうに全く普通の声で問い返す。 男性教諭は慌てたように声を押し殺して言う。 「だから、担任する生徒ですよ」 これ以上声を上げられても厄介だと思ったのだろう、それだけ言い捨てるように言うと、そそくさと自分の机に向かい直す。 ああ、彼らは苦労してるんだろうな、とぼんやりと思う。 生徒たちの親は、かなりの割合で多かれ少なかれ天宮財閥に関わっている。親に言われているからか、生徒たちは戦々恐々で天宮財閥御曹司とLe ciel noirの跡継ぎを遠巻きにしているらしい。 その上、教師までこれでは。 確かに、己の親だか兄弟だったかも、天宮財閥と取引のある企業で働いているはずだ。 だからといって、それはそれ、これはこれ。 余計なことを慮っていたら、それじゃなくてもやらねばならぬことで目一杯の新人はあっという間にいっぱいいっぱいになるどころか破裂するに違いないのだ。 まぁ、そんな出自の生徒もいるなぁくらいで良かろう。 そんなわけで、なんとはなしに平穏無事ってわけにはいかなさそうな気がしつつ、倉橋栞の教師一年目は始まる。 五月も半ばになろうという頃。 にょっきりと、どこからともなく黒木圭吾が顔を出す。 「先生、質問がありまーす」 「なに?」 テストの採点途中だったので、いささか面倒臭そうに栞は返す。 職員室にいると、教頭やらその他イロイロ、今日一日粗相は無かったとかなんだとかウルサイので、離れた場所を見つけて一人を決め込んでいたのだが、どこからか嗅ぎ付けてきたらしい。 「先生は、俺のこと怖くないんですかー?」 「はぁ?」 思い切り怪訝な顔で黒木を見やる。 「なんで私が黒木を怖がらなきゃいけないわけ?」 「知らないけど、たいがいの人は俺のこと怖いんだってさ。だから、先生はどうかなぁと思ったんだ」 なにか意図があるわけでなく、純粋に疑問に思ったことを問うているらしい。 ちなみに、この質問は周囲の生徒や教師に次々と浴びせられており、何事かと周囲を恐慌に落とし入れているのだが、その点は黒木は全く自覚していないのか、気にしていない模様だ。 自分も例外では無かったのだなぁ、とあまり関係の無い感慨を抱きつつ、栞はあっさりと返す。 「イエスかノーでいいなら、ノーだね。私は黒木を怖がらなきゃいけないようなことは、何もしてない」 「へぇ、四人目だ」 いくらか感心した顔つきなって、一人で納得しているので、今度は栞から問う。 「なんだ、四人目って」 「うん、俺のこと怖くない人、四人目」 指を四本、ずずいと出してみせる。なんかコイツ、年よりもやってることが幼いんじゃないかとか思ってしまう。 それはひとまず置いとくとして、人並みの好奇心くらいは持ち合わせている。 「あとは、誰?」 「天宮と山本と篠崎」 天宮は一人しかいないから問うまでもない。 「山本って、山本皐?」 「うん」 もう一度、黒木は頷いてみせる。 「はぁん、そうなのか。もう一人は篠崎麻子だな」 「そう」 さらに、黒木は頷く。 「で、黒木は怖い人はいるのか?」 「うーん、どうかなぁ。ヤバいことしなきゃ、怖がることも無いんじゃないかと思ってるんだけど」 あはははは、と屈託無く笑っている。 栞も、にやりと笑い返す。 「ヤバいことしたら、がっつり叱ってやるから覚悟しとけ」 「気をつけるよー」 笑いながら、黒木は走っていってしまう。用事は済んだ、ということらしい。 一人になって、首を傾げる。 確かに、グループつくるこのになると、間違いなくその四人がつるんでいる。 他になり手がいないのもあるが、やはりそういうことなのか、と思う。 天宮と黒木は、納得がいく。取り巻く環境のせいもあるが、性格的に合いそうだ。 篠崎も、大人しそうに見えて、かなり芯がしっかりとしている。やはり、性格的に二人に合いそうだ。 が、山本は意外だった。 なんとなく、掴みにくい性格をしているヤツとは思っていたが。 なんにしろ、友達がいるのは良いことだ。子供は子供で、どうにかしてしまうものである。 やろうと思っていた仕事に、栞はまた、集中し始める。 これといって大事に致るようなこともなく、六月になって。 今度は天宮が、どこからともなくにょっきりと姿を現す。視線で何か、と問うと、問い返される。 「先生、俺のとこにも家庭訪問来ますか?」 「親御さんが、どうしてもどうにもならんというなら別だが」 栞の言葉に、天宮はいくらか困惑気な顔つきになる。 「そうですね、先生とお会いする時間は作れないと言ってます。ただ屋敷を見てくれるのは構わない、と」 「なんで、屋敷見物の話になるんだ?」 わけがわからんとばかりに、訊き返す。 「家庭訪問というのは、親との意思疎通のほかに、どのような環境で生活しているのか確認するためのモノだと思っていましたが、違いましたか?そうでなければ、学校で面接すれば良いことですよね」 そんなことまでは、こちらの気が回っていなかった。 「うーん、まぁ、そうだな。確かにそれはそうだ。じゃ、天宮の家の都合がつくなら、屋敷にうかがうことにしよう」 「そうですか」 にっこりと笑みが浮かぶ。 「なにもありませんが、美味しいお茶だけは用意出来ます」 美味しいものは歓迎だ。栞もにっこりと笑い返す。 「そうか、それは楽しみだな」 というわけで、倉橋栞は天宮家に踏み込んだ初めての教師として名を知らしめた。 ここらに来ると、もう誰も栞に粗相するなとかなんとか、面と向かってウルサイことを言うのがいなくなりはじめた。 とてつもなく太い神経と、剛毛の生えた心臓の持ち主だということになったらしい。 一応は女だというのに、剛毛とは酷いのでは、と思うが、否定するのも面倒なのでやめておく。 影では更にウルサイことになっていたりもする。 天宮家に取り入ったとか何とか。 アホかと思うが、口にするのも馬鹿らしい。 ほっておいたら、保護者でもクレームつけてくるヤツがいたらしい。PTAとかいうのが。 おかげで、教頭の前に呼び出された。 天宮当人もいて、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんと謝れ、と教頭は言う。PTA会長だとかいうオバサマも深く頷く。 いくらなんでも理不尽だが、可哀想なのはこんな茶番に引っ張り出されている天宮だ。 とっとと済ませるには、適当に詫びとくのが良かろうと思って息を吸ったところで、先手を打たれる。 「ようするに、財閥の息子の家は家庭訪問の対象にはならない、とおっしゃるのでしょうか?」 ごく冷静な口調だが、表情の無さが彼の感情をよく表している。 「担任である倉橋先生が、私の家にいらっしゃるのはごく当然のことであるかと思っておりましたが。確かに、父は多忙にてお会いすることが出来ませんでしたが、身近に私の側にいてくれる人とはお会いしていただくことが出来ました。個人的には、大変有意義であったと判断しておりましたが、間違っていたということでしょうか?」 大人びた口調が全く違和感が無いあたり、天宮財閥御曹司たる所以だろう。 栞の目から見て、この場でもっとも貫禄があるのは、天宮だ。たった一言でウルサイ教頭とPTAを黙らせてしまったのに、栞はかろうじて笑いをこらえる。 天宮の口から出た正論よりも、機嫌を損ねたということの方が彼らにはダメージが大きいらしい。 口の中でごにょごにょと言い訳しつつ、話は終わる。 ろう下へと出て、どちらからともなく顔を見合わせる。 「ご迷惑をおかけしました」 案の定の天宮の言葉に、栞は苦笑をこらえる。 「何がだ?迷惑をかけたのは私の方だろう?悪かったね、こんなことに時間を割かせてしまって。家庭訪問に関しては、天宮の家を見せてもらえたことは有意義だったし、なんと言ってもお茶は最高だったよ。それに」 にやり、と笑う。 「ここだけの話、あんなケツの穴の小さいこと言ってるようじゃ、大物にはなれないと思わないか?」 聞いた天宮の目が一瞬丸くなり、次いで、かろうじて吹き出すのをこらえた顔つきになる。 「その点は大いに賛成ですね」 この件で、栞は天宮財閥御曹司のお気に入りと認識されたらしい。 ウルサイのは完全に消えた。無論、面と向かって、という意味ではあったけれど。 本格的に特別な連中の担任をやっているのだなぁと実感したのは七月の初めだ。 「なぁなぁ、先生。あそこにさ、ちょっと変なおっさんが」 と話しかけてきた山本皐共々、その変なおっさんに人質というのにされてしまった。ご丁寧に、銃なぞつきつけられて。 まったくもって不愉快だが、生徒一人の命も一緒にかかってしまっている。下手なことは出来ない。 要求は、天宮健太郎を呼んで来い、というもの。 パニックを起こしている教頭はじめの教師たちよりも、ずっと落ち着いた顔つきで天宮は現れる。 「要求は?」 「お、オレをや、やとえ!いっぱい会社あんだから、ど、ど、どっかオレ一人くらい潜りこめんだろ!え?!」 背も華奢さも子供なのに、視線と口調は全く大人と変わらないどころか、貫禄さえあるのに気圧されたのか、男の方がどもっている。 人の命をカタになにを言ってるんだか、と思うが、下手に口にも出来ない。 ストレスである。 天宮の方は、人質がいるのが目に入っているのかいないのか、冷静な表情も口調も崩さずに、次の問いを発する。 「何が出来るのか、教えてもらおうか?」 「なに?」 怪訝そうに尋ね返す犯人に、履歴書も無く就職活動とはいいご身分だと言ってやりたくなるのを必死で抑える。 山本には災難だが、自分にはある意味良かったかもしれない。彼の命を守らねばと思っていなければ、ツッコミまくってあっという間に銃の餌食になってそうな気がしてきた。 「だから、貴方が出来る仕事はなにか、と尋ねているんだけれど。適材適所でなければ、同じことの繰り返しだろう?」 噛んで含めるような声にムッとしたのか、男は声を荒げる。 「な、なんだっていいんだよ!食えりゃ構わねぇってんだ!余計なことを言ってやがると、どうなっても知らねぇぞ?!」 「なんの能力も無い人間を雇うほどの余裕は、残念ながらないな」 天宮は、涼しい顔のままできっぱりと言ってのける。 「というよりさ、そもそも俺に、人雇う権限なんて無いんだけど」 面倒臭そうに肩をすくめてみせる。 男は、もちろん、かちんと来たようだ。 「お前、じ、状況がわかって、い、い、言ってるのか?!お前のせいで、二人の、い、い、い、命が!」 「命が、何?そんな手つきで奪えるのかどうか、怪しいものだね。だいたい、奪った後のことに耐えられるのかな。永遠に、人を殺したという呵責がついてまわるわけだけども」 全く動じる様子無く、天宮が返す。 「そ、そ、そこまで言うなら!」 ぐ、と銃に引き寄せられたのは山本の方だ。先ほどから、嫌に大人しい。これはさすがに、とどうにか視線をやってみると。 涼しい顔つきで、天宮を見やっているではないか。 間違いない、怖がってない。黒木や天宮と違って、素直に感情が表情に出ることは知っている。 自分の命が危ないかもってわかってないわけではあるまいに。 そういえば、なんだかんだでいつも天宮とつるんでいるはずの、黒木の姿が見えない。友人のトラブルに、黙って指をくわえているタイプではないはずだ。 と、言うことは。 最後まで思考が辿り着く前に、男の手はひねり上げられている。 「どっから買ったのか知らないけど、見れば見るほどに粗悪品だねぇ」 「い、痛てぇ!放せ!」 悲鳴を上げるが、ひねり上げてる当人は一向にお構い無しだ。 「放せと言われて放すのはバカってもんだろうが?悪いんだけど、アンタやっちゃあいけないことをやったよ」 「な、なんだ、お前、なんなんだよ?!」 当人よりもずっと柄の大きな男の手を、なんなくひねったままで黒木は、ちら、と栞に視線をやる。 離れろ、の意だとすぐにわかる。それから、見るな、という意味でもあると。 「ここは学校だ、やり過ぎるなよ」 一言だけ言うと、山本を一気に引き寄せる。 手をひねり上げられた上に、半ば支えのようにしていた栞と山本に抜けられて、男はしりもちをつく。 にい、と黒木の口の端が持ち上がったのが、ちらり、と見える。 「アンタさ、俺の大事な担任教師とダチに手ぇ出したねぇ?」 「な、なんだ、お前、なんだ?!」 子供とは思えぬ迫力に、男はしりもちをついたまま後ずさろうとするが、ひねり上げられた手がそれを許さない。 「俺が誰だっていいじゃない?ともかく俺は、アンタのやったことが気にいらねぇ」 そこまで言って、困惑気に顔を上げる。 「で、ここで言うところのやり過ぎないってのは、どの程度だ?」 「さぁなぁ、手を下して殺るのがマズイってことか?」 いつの間に側に寄って来ていたやら、天宮も不可思議そうに首を傾げる。 「かといって、後から手を下すほどのでもないけどな」 さすがに、あまりに遠い世界になりまくってて呆然としている栞の隣で、遠慮なく吹き出したのは山本だ。 「そりゃさ、それなりに責任は負ってもらえるようにしないといけないってことだよ」 「難しいなぁ、こんなくだらないことで天宮の名前が出たら、親父何言うかわからんし」 「じゃ、やっぱ手っ取り早く」 黒木の手が怪しい動きをみせ、男が悲鳴を上げる。 「いやいやいや」 我に返って、思わず栞も止める。 「じゃ、どうすればいいんだよ?」 言いながらもさらにひねり上げられて、男の手から銃が転がり、黒木の足の下へと収まる。 「まぁ、ひとまず」 言いながら、天宮は写真を撮る。ソレを見て、黒木は空いてる手でハンカチを取り出し、銃を拾い上げる。 「なぁ、その写真、俺にくれよ」 「どうするんだよ?」 天宮に問われて、黒木はにやりと笑う。 「保険だよ、指紋と顔写真が俺のとこあれば、なんかあったらすぐに対処出来るから」 いや、それもどうだろうと思うが、決める当事者ではないことは確かだ。 ぬ、と黒木は男のまん前に顔をつき出す。 「いいか?二回目は無い。消されるじゃ済まなくなるってのを、よくよく肝に銘じとけよ?」 にい、と最初の笑みが浮かぶ。 「もしも意味がわからないなら、コイツを売りやがったバカにこう訊きな、黒木って誰だってな」 ほうほうの体で男が立ち去ってから。 深々と天宮と黒木に頭を下げられて、栞は目を丸くする。 「何で謝る?」 「俺が標的なのに、巻き込んだ」 「俺がいるのに、こんな目に合わせた」 口々に言うのに、思わず笑い出してしまう。 「あのさ、私は教師だよ?学校にいるうちに生徒に起こったトラブルに巻き込まれるのは当然だろう。それよりも、助けてもらった礼を言うよ。ありがとう」 天宮と黒木は、どちらからともなく顔を見合わせる。 浮かんだ笑みは、先ほどまでの大人顔負けな対処からは想像出来ない子供らしいモノだ。 「しおりんには敵わねぇな」 「確かに」 なんだ、こんな子供らしい表情も出来るんだ、と思う。 いや、出来なくしてるのは周囲だろう。 それよりも、だ。 「その、しおりんてのはなに」 「先生のことに決まってるじゃん」 にっこりと山本が見上げている。 いつの間にそんな呼び名になってたと思うが、それ以上に言いたいことはある。 「山本、よく冷静に対処出来たね」 「ああいう時には、変に騒がない方がいいって教えてもらってたから」 教えたのは、無論、天宮と黒木に違いない。 二人の友人になるというのは、そういうことに巻き込まれる危険性が伴う、ということ。だからこそ、遠巻きにされてるのがわかってても、必要以上に近付かないのだろう。 「わかってても、なかなか出来ないだろう?」 「そう?だって、生きてさえいれば、絶対助けるからって言われてたし、ねぇ?」 にっこりと言われて、一瞬、二人共が絶句する。が、すぐに、に、と笑う。 「うん」 「必ず」 栞は、軽く肩をすくめる。 「大物ぞろいで頼もしいね」 「しおりんもねー」 山本に返される。 「そりゃどうも」 ごく自然に、自分の顔に笑みが浮かぶのがわかる。 なーんだ、とココロの中で呟く。してないつもりでいたけれど、やっぱり緊張していたらしい。 「おお、しおりんの笑顔っ」 と、黒木。栞は、はぁ?と尋ね返す。 「いつも、私は笑顔だろうが」 「だって、俺ら作りもんは見飽きてるもんよ」 速攻で返される。天宮が苦笑する。 「そりゃ、贅沢ってもんだろ」 なるほど、普通の笑顔が贅沢か、と、栞は少しため息をつきたいような気分になる。 「まぁ、気楽に行けばいいんじゃないの?悪いことばっかでも、ないだろう」 「しおりんもいるしね」 さらり、と天宮に言われて、ほほう、と呟く。 まぁ、悪くない先生やれてるってことなのだろう。周りにはイロイロと言われるのだろうが、このまま行けばいいと後押ししてもらったような気がして。 また、栞は笑う。 「それなら、嬉しいね」 まぁ、もっとも。 こんなのも悪くないと思ってしまったからかどうか、以後、この手の生徒は一手に引き受けるハメになるのだが。 それはまた、先の話。 2004.12.15 A Midsummer Night's Labyrinth 〜He wannabe Teacher's pet〜 |