『 君との約束 』
並んで歩く二人は黙っていたけれど、その沈黙はけして重いものではなかった。 むしろ、互いをよく知っている者同士の心地よい沈黙だ。 ふ、と優が視線をやると、彼女も顔をあげて微笑む。 こうしていると、あと二ヶ月などという残酷な期限など、悪い冗談ではないかと思いたくなる。 だが、例え彼女の気力で命がいくらかの猶予を得るのだとしても、何もかもが現実だ。 まだ人生はこれからの彼女の命が遠くはない日に奪われていくことも、自分が手にしてはならぬモノによって彼女の側に居続けることが出来るようになったのも。 一瞬、自分の考えに飲まれている間に、目前に彼女のイタズラっぽい笑顔が来ていた。 「聞いてないでしょ?」 「あ、うん、ごめん、何?」 照れ笑いを浮かべつつ返すと、彼女の視線はいくらか遠くへと投げられる。 その視線の先へと辿っていくと、スクール帰りの子供たちが駆けて行くのが見える。 笑い声が、優たちのところまで響く。 「……あの頃は、あなたとこうして歩くことになるとは、思ってなかったわ」 「いつも、一緒に歩いていたけどね」 いくらかしんみりとした彼女の声に、屈託のない声で返す。 「そうねぇ、泣き虫だったもんね」 「いっつも、後ろに隠れててね」 にこり、と優に返されて、彼女は眩しそうに目を細める。 が、すぐにいつも通りの笑みを浮かべる。 「半々だったら、ちょうど良かったかもしれないね」 「僕たちの子供はそうなるさ」 こくり、と彼女は力強く頷く。 「うん、そうね。治療薬が出来るまでがんばるからね」 「そうだよ、もっともっと、一緒に出来ることはたくさんあるんだから」 笑みを交わして、また、歩き出す。 そうそう簡単に、この難病の治療薬など出来ないことくらい、二人とも知っている。 でも、約束したから。 出来るだけ、生き延びると。 そして、彼女が生きている限り、側にいると。 どちらからともなく、遠ざかっていく子供たちへと、視線を戻す。 もしも、いつの日にかがあったのなら。 「男の子よね」 「女の子だよね」 顔を見合わせて、同じことを考えていたことに、笑い出す。 「じゃ、両方」 「うん、両方」 くすり、と笑う。 「せっかくなら、双子ね」 「いいね、男の子も女の子も、一緒」 頷きあってから、彼女は小指を出す。 「約束」 「うん」 もう、何個目の約束かわからないけれど。 この約束も、忘れない。 どこにいようが、絶対に。 2005.01.20 A Midsummer Night's Labyrinth 〜Promises with you〜 |