富を手に入れた女は、変わった。
分け与えることを惜しみ、自分だけが幸せであることを望んだ。
かつて自分が、誰にも救われなかったから。
手を必要とする者たちを、はねのけた。
壁をつくり、外界を避けた。
幸せなのは、自分だけ。
そう、望んだのだ。
彼女は、天に祈り、感謝することも忘れた。
女に富を与えたモノが、なんであったのかも忘れた。
かつての自分と、同じであろう使用人たち。
それに、鞭をふるった。
自分のための富を、手に入れるため。
満月の夜。
物音一つしない夜。
女は、いちばん最初に実りのあった畑に、出た。
なにかの気配に気がついて。
手に、鞭を握り締め。
そこにいたのは、漆黒の牛。
金の角が月に映える。
角のほかは、すべて黒。
こちらを、まっすぐに見つめる瞳も。
身じろぎひとつせぬそれは、なにかを思い出させた。
かつて、陽のなかに立っていた、真白の羊を。
そして、女は悟る。
全てが終わったことを。
彼女は、誤ったことを。
漆黒の牛は、蹄を動かした。
たった一本だけ、ぽきり、と折った。
それから、ゆっくりと立ち去った。
あとには、枯れ果てた大地が広がるだけ。
-- 2000/06/13