男にとって、戦うことが生きること、だった。
殺さなければ、殺される。
その術と力を手に入れた男の周りには、人が集った。
男の側にいれば、自分も殺されない。
そう、信じて。
男は、そんな周囲を信じはしなかった。
信じれば、それがスキになる。
スキがあれば、殺される。
少しでも妙な挙動をした者は、その瞬間に命を失った。
人々は、男を恐れた。
『誰も、信じない男』と。
男はある日、女神をみた。
戦いのさなかに、女神をみた。
女神は、男と瞳があうと、にっこりと微笑んだ。
そして、男は、勝利した。
それから、戦いのたびに。
男は、女神にあった。
女神は、男が殺せば殺すほど、やさしく微笑むようにみえた。
男は、夢中で殺した。
自分が生きるためでもなく、
誰かを守るためでもなく、
ただ、女神の笑顔を見るために。
その日も、男は殺しつづけた。
戦いの勝利は、目前だった。
顔を、上げる。
女神の笑顔が、そこにあるはずだから。
男の見たものは。
いまにも負けそうな、敵方の大将にむかって。
妖艶に微笑む、女神の姿。
次の瞬間。
男の視界は真っ暗になった。
-- 2000/06/16