すべてを手に入れたいと、願った男がいた。
すべてを理想通りにしたいと、望んだ男がいた。
すべてをひれ伏させると、決意した男がいた。
力を手に入れた。
腕に、頭に。
戦をしては、負けることなく。
そして、新たな国が、造られる。
すべてが新しい国。
法が、道が、服が、金が、文字さえも。
なにもかもが、彼が創り出したモノ。
それが、彼の望んだコト。
それが、彼の願ったコト。
新しいモノを生み出すためには。
力がいる。
人という、金という。
労力を駆り出され、財を奪い取られ。
怨嗟が、ひろがる。
新しいモノを、喜ぶ凱歌ではなく。
苦しみ悶える、恨みの声が。
でも、その声は、彼には届かない。
前を見て、進みつづける彼には、聞こえない。
もっと新しいモノを。
もっと理想のモノを。
願いつづけ、望みつづけ。
戦はやまず、古いモノは燃やし尽くされ、焦土になった。
それを、愛してやまない者たちが、いるのに。
それを、望まないのは、彼だけなのに。
彼さえいなければ、すべては終わるのに。
この、塗炭の苦しみが終わるのに。
だけど、絶大な力をもった彼を、誰も消せない。
最後の砦すら、燃やし尽くされることが決まった朝。
彼は、姿をみせなかった。
不信に思った近習が見たものは。
彼の首筋に、深々と刺さる、金の針。
彼の瞳は、見開かれたまま。
虚ろに宙を眺めていた。
焦点の、あわぬまま。
届かないモノに、手を差し伸べたまま。
-- 2000/07/16