苦しむのは、いつも選ばれぬ人々。
天下の珍味などというものが、存在することすら知らない。
なぜなら、彼らは日々の糧すら、ままならない。
枯れた土地をやっと耕して、得た作物も。
織り上げた絹も。
美しく育った娘さえ。
王のため。
それに仕える者たちのため。
全て、召し上げられてしまい。
人に残るのは、豆の無くなった豆がらと。
絶望と。
選ばれぬ人々の中の一人が、夜の闇の中で、自問自答を繰り返す。
このままでいいのか、と。
餓えて、死ぬのを待つだけか、と。
死にたくはない。
だけど、どうすればよいのか。
いつもなら。
そこで思考は途切れてしまう。
なのに、その日は。
自分らを、餓えさせて平気な者たちを、倒せばよい。
彼は、驚いて顔を上げる。
答えは続く。
不満を抱いているのは、自分だけではない。
一声発するだけで、すぐに数百の人々が。
そして、やがては数十万、数百万になるはずだ。
選ばれぬ人々の方が、多いのだから。
不意に思いついた考えに、彼は震えを感じる。
学のない、彼にもわかる。
それは、叛逆だ。
王には、兵がいる。武器がある。
兵たちも、選ばれぬ人々が集められた者たちだ。
故郷に、家族が残されている。
餓えに苦しんでいる家族が。
それに、武器は刀だけではない。
大地を耕す鋤も鍬も、使いようだ。
彼は、瞳を見開いたまま、虚空を見つめる。
出来るか?
時を失わなければ。
彼は、もう迷ってはいなかった。
まっすぐに、立ち上がる。
そして、こぶしを握り締める。
ほどなくして。
大地を揺るがす、民の声が上がる。
奔流がいくように、城を守る関は破られる。
選ばれたと信じていた王は、その命を失った。
-- 2001/11/18