少女が彼と始めて相見えたのは、血塗られた戦場だった。
昨日までは、迫った戦火に怯えながらも、笑いさえあった街。
それが、暴虐な王によって蹂躙されていく。
大事なモノを奪われぬ為に、少女は剣をとった。
しかし、全てを失い。
もうよい。
そう思った時。
白刃の剣が、少女を救った。
その剣を振るったのが、彼。
叛逆軍と呼ばれ。
各地での戦に破れ。
それでも、諦めることなく暴虐な王を倒す為に戦いを続ける。
理想の為に、走りつづける軍を率いる男。
生きろ。
彼は、まっすぐに少女を見つめて怒鳴るように言った。
生きて、この先を見ろ。
少女は、まっすぐに彼を見つめ返し。
はっきりと、告げる。
では、あなたの行く先を見届けよう。
少女は、剣を離すことなく。
彼の軍へと身を投じる。
甲冑に身を包み、一人の騎兵となり。
好奇の目で見た他の騎兵たちも、いつしか仲間と認め。
彼の最も信頼する将の一人となり。
誰かが、教える。
彼は、最も大事なモノを失ったから。
だから、他の誰かの大事なモノが奪われることのないように。
その為に、兵を挙げたのだと。
いつしか、少女でなくなった彼女は祈る。
彼の願いが叶うことを。
そして、いつの日か。
彼に、また、大事なモノが出来ることを。
朱に染まった手を、透明な水で清めながら。
毎日のように、祈りを捧げた。
彼の願いが、民の願いとなり。
叛逆軍ではなく、望みの軍となり。
絶大な力を持っていたはずの王が、追い詰められ。
豪奢な城が、火に包まれ。
彼の望みは、果たされる。
無駄のない、新しい城が造られ。
人々は、歓喜に沸いて杯を上げる。
綺羅な装いの女たちが、新しき王となった彼に微笑みかける。
彼は、微笑み返してから。
変わらず、剣を帯びて側に控える彼女へと視線を向ける。
生きて、よかったか。
彼女は微笑む。
彼の願いが叶うのを、見ることが出来た。
それは、なによりの喜びだと。
彼も微笑み、それから。
集まった民へと告げる。
皆の言うとおり、妻を迎えよう。
望みが叶った今が、その時だ。
そして、彼女の手をとる。
修羅を共に歩んだ彼女を、妻にしたい。
私の、大事なモノだから。
人々は、笑顔で杯を上げ。
最も相応しい、と笑う。
彼女は、水に祈りつづけた願いが叶ったことを知る。
-- 2002/05/18