第三十回 『孔明の大論戦』
(曹)よくよく考えて見れば、いまさら玄徳に固執する必要はないんだよ
な。江東潰せば、天下は自ずと俺のもの。
(劉)なるほど、孫権に揺さぶりをかけるか。軍師っていいなぁ、
たなごころ指すように相手の動きを読んでくれる。
孫権殿から使者がくるのか、なるほど。
(曹)そういうこと出来るのは、奉孝(郭嘉)と孔明くらいだと思うぞ。
(劉)そうなのか?ともかく、本当に子敬殿(魯粛)が使者に現れたよ。
ほほう、公瑾殿(周瑜)殿は孫権殿に疎まれているのか、それは
珍しい展開だな。
(曹)それもそうだが、俺には玄徳の相変わらずな親切ぶりの方が驚き
だよ。俺のこと教えるのに江東に来てくれって言われて、素直に
頷くか普通。
(劉)だって、困ってるんだぞ。
(曹)ほら、孔明に言われてるじゃないか。一国の主なんだから、動くのは
領民も兵も皆動く時だってさ。
(劉)それは、孔明が犠牲は己一人でいいと決めているからだよ。
ことによったら、あちらは敵地になるからな。
(曹)雲長(関羽)、言ったら聞かないって、それ玄徳軍に所属する全員
だから。
(劉)あははははは。ともかく、ここまで来たら祈るしかないな。
(曹)で、江東だが。……言っていいか?
(劉)どうぞ、心置きなく。
(曹)間違い無く、
初登場の孫権は俺よりも悪人にしか見えない。
孔明が江東の文官たちを論破出来なければ話は聞かないってところ
まではともかく、
「兄の尋問をどうかわすか見物だ」の挙句、
笑い方が完全に悪役そのものだぞ。俺だって、さすがにあんな風には
笑わない。
(劉)企んでいるような笑いなら、よくしてるけどね。それはそうと、
孔明って「武術の心得があります」ってはったりじゃなかった
んだな。相手の剣をきっちり受け流してるよ。
(曹)あんな夜更けに他国で出歩いてるってあたりと、
剣を受け流せる
白羽扇って何で出来てるのかというあたりが大変気になるんだが。
(劉)白羽扇の方はともかく、夜更けに出歩いたのは兄の諸葛謹殿の家を
訪ねたかったんじゃないかな。ほら、騒ぎを聞きつけて出てきたよ。
(曹)弟の高笑いで呼び出されてくる兄……
(劉)剣が向いてたのに、さらりと「兄上、お久しぶりです」という余裕が
あるのが孔明らしいね。
(曹)誉めるところか、そこ。兄の方が人が良さそうだが、弟の考えは
読めるようだな。なんせ質問が
「何を企んでいる?」だ。
(劉)企んでるわけ無いじゃないか。もちろん、論戦に負ける気はないけど
もさ。孔明だって充分に人間らしいよ?「明日の論戦には、なにが
あっても負けません。ですが、兄上が相手では、私も心が乱れます」
って。
(曹)その後の「ですから、明日は欠席していただきます」って決めつけは
どうなんだ。
(劉)それくらい強気という意思の現れだね。
(曹)孔明ならなんでもいいのか。ほら、兄に「思い上がるな」って
言われた。
(劉)江東数百万なら、俺には数千万の民の期待がかかってるんだってさ。
信念の強さなら、間違い無く孔明だろう。
(曹)押しの強さじゃないのか。結局、兄は急病を理由に欠席か。
(劉)これで孔明も思いきり論戦が出来るね。中身を見よとは、さすが
だな。
(曹)屁理屈だろ、それ。
(劉)そうかなぁ。でも、どうして孫権殿に俺を討たせることにしたわけ?
孔明も問うてるけど、俺も気になるな。
(曹)う、それは。
(劉)兵と民の信頼が恐ろしいんだ、ふぅん。
(曹)それは孔明の勝手な理論だろうが!
(劉)そうかな?ああ、上手く行くところだったのに、貞姫の邪魔が
入ったよ。
(曹)孔明が呆然とするほど淑玲と似てるか?
(劉)それは設定だから、そういうことにしとかないと。それはそうと、
いよいよ公瑾殿の登場だよ。
(曹)待て、いつ俺が二喬目当てで江東攻めを決めたと言った!
(劉)それも目的だろ。
(曹)勝利してからの話だ!
(劉)どっちにしろ、真実じゃないか。というわけで、開戦決定。
(曹)そんなに俺の百万の実力が見たけりゃ見せてやる。覚悟しとけよ。
(劉)荒れてたねぇ、机蹴ったりして。
(曹)それよりほら、周瑜が孔明に殺意抱いてるぞ。おやおや、玄徳まで
呼び出す気か。これは一波乱あるな。
(劉)というあたりで、続きは次回。