第四十三回 『引き裂かれた愛』
(劉)本筋に戻ってきたよ。
(曹)阿斗が出てくるとほのぼの家族……じゃなくなってきたな。貞姫
厳しいぞ。
(劉)一生懸命母親になろうとしてるところは、ある意味微笑ましいん
じゃないのかな。
(曹)益州援軍の件の打ち合わせさ、雲長(関羽)や翼徳(張飛)が
全軍が動く前提で話すのはともかく、なぜに士元(ホウ統)まで。
(劉)前回地図も手に入れたことだし、攻め取る気満々なんだろ。
(曹)その地図、なんで孔明からも隠すんだ?
(劉)さぁな。まずは腹を知りたいというところじゃないのか。
(曹)で、同じかと思ってたら孔明は玄徳寄りだったと。しかも士元には
ちと理解しがたいくらいにな。にしても、士元は持論を語り出すと
熱いんだなぁ。普段は、飄々としてなんとなく斜に構えてる風
なのに。
(劉)前回の張松の件の時に顔の話が出たら冗談にまぎらわせてたけど
気にしてたからな。いろいろとあるんだろう。議論にはなったが、
二人共バカじゃないんだから、おいおい理解出来るだろうしね。
それよりも劉璋殿の援軍に行かないと。
(曹)自らっていう正義感はらしいと褒めるが、人を信じすぎてるよな、
相変わらず。それから、あれだけの軍馬が出撃する喧騒の中から
阿斗の声を聞き分けたのは褒めてやる。
(劉)親なら当然だろう?関平もすっかり成長したし、安心だよな。
(曹)そんなにのんびりした気分なのは玄徳だけだぞ。翼徳でさえ、玄徳が
蜀に入ったのなら孫権が動き出すとばかりに緊張感漂わせて、貞姫の
見張りを強化してるってのに。
(劉)なぜ見張る必要があるんだ?関平だって、そうは思っていない
じゃないか。
(曹)がらは大きくなったが、まだまだ関平もお子様だな。当人の意思は
ともかく、孫権の妹だからさ。俺が孫権なら、玄徳不在となったら
どんな手段を使っても連れ戻すぞ。ほら、魯粛が来た。
策略に気付く順番に納得だな。
(劉)そして、逃げたとわかったら「裏切った」と翼徳が怒り出すあたり
もな(苦笑)。さすがに、ここまで来ると孔明も貞姫の心がわかって
くれているね。「人質としか思ってなかったのは、私たち」と。
(曹)理解示してる場合じゃない、阿斗を人質にされかかってるぞ。
(劉)それは孔明たちもわかってるさ。陸路と水路、双方から追うから
きっと追いつくよ。
(曹)陸路組の雲長と子龍(趙雲)の背中合わせとか説得とか、なかなか
美味しいな。
(劉)いいだろう。
(曹)おや、孔明は貞姫だけは見送ることにしたのだな。
(劉)血を見ることなく済ませたいという、貞姫の心を汲んでくれたの
だろう。
(曹)さすがに、ちと玄徳もたそがれてるな。
(劉)というところで、続きは次回。