□ いいお兄ちゃんの条件
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散歩しようと外に出た二人は、さて、と見回す。
「どっちに行くかな」
「こっちだったけ、良く行ってたのは?」
顔を見合わせて、どちらからともなく苦笑する。ジョンは五号常勤で滅多に降りては来ないし、スコットは多忙で余暇など無い状態がずっと続いている。
「散歩なんて、久しぶりすぎて」
「うん、そうだね。まあ、こっちでいいかな」
「どこにせよ、新鮮そうだ」
どちらからともなく、ジョンが気まぐれに指したほうへと歩き出す。
これといって会話は無いけれど、なんとなく空気が優しいような気がして、ジョンは目を細めていたのだが。
なぜか、くす、とスコットが笑うので、ジョンは首を傾げる。
「どうかした?」
「いや、いい兄さんの日か、と思ってな」
ああ、この笑顔はコチラの考えを読まれているな、とジョンは思う。ただ、あの場で言ってしまっては一生懸命に考えたゴードンたちに申し訳ないと素知らぬふりをしていたのだろう。
「知ってて、付き合ってくれてたんだ?」
肩をすくめて尋ねてやると、少し困ったような表情が返る。
「まあ、レスキューも無かったから」
ちょうど見えてきた海へと、視線が投げられる。
「話したいと言ってくれているのに、なかなか時間も取れてないしな……ゴードンたちにはすまないことをしている」
ふ、と海に目をやったままの表情が曇る。
「実際のところは、いい兄さんには程遠いな」
あまりに大真面目な口調なモノだから、うっかりとジョンは吹き出してしまう。
「ジョン?」
怪訝そうにスコットは振り返るが、ジョンの笑いは止まらない。ひとしきり笑ってから、やっと口にする。
「いったい、どれだけいい兄さんになる気なのさ?」
「どれだけって?」
「いつもインターナショナルレスキューを着実にまとめて引っ張ってくれて、僕らがお願いしたことをちゃんと気にかけてくれて、こうして付き合ってくれて、いざって時には身を挺してまで守ってくれてる。これ以上って、どんなか、僕には想像もつかないな」
大きく肩をすくめてみせれば、スコットは何度か瞬きした後、苦笑する。
「ジョンは優しいな」
「そうじゃない、本当にスコットは良くしてくれてる。それでもスコットが足りないって言うのなら、僕がこうしたらもっといい兄さんってお願いしたら、聞いてくれる?」
「僕に出来ることなら」
真面目な口調で返すスコットに、ジョンは笑いかける。
「なら、もう少し自分も労わって」
「ああ、わかった」
スコットは、きょと、と目を瞬かせつつも頷く。
相変わらず、全くわかってないな、とジョンは思うけれど、このコトについては長期戦だとすでに覚悟は決めている。それに、せっかくだからこの時間を楽しみたいとも思うので。
どうか、僕たちから大事な兄さんを奪うようなことはしないでくれ、という言葉は、そっとしまい込む。
「そう、嬉しいよ。じゃ、もう少し散歩にも付き合ってくれるかな?」
「もちろん」
柔らかい笑顔で頷いてくれたスコットに、ジョンも笑い返す。



2015.11.11 Day of a good older brother

■ postscript

認識温度差の話。

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