□ お兄ちゃんとお買い物 Ver.G
[ Index ]

久しぶりに買い物当番となったスコットと一緒にやってきたのは、ゴードンだ。
カートを押しつつ、スコットがリストに従って必要なモノを入れていっているので、ゴードンは少し外れた所にあるモノなどを取りにいったりして、効率よく集めているところだ。
ちょこまかと動き回っているゴードンに、スコットはのんびり笑いかける。
「ゴードンは気が効くな」
「そうでもないよ。この方が効率いいでしょってだけ」
肩をすくめつつ、やはり兄が喜んでくれるのは嬉しいので、笑顔を返す。
「確かに、ゴードンのお陰で早いな、もう揃った」
「そう、じゃ、会計しよっか」
「あ、待ってくれ」
ちょっと困ったような顔で首を傾げつつ、ちょい、と違うレーンを指す。
「すまないが、寄ってもいいか?」
「うん、もちろん」
なんでお菓子のレーン?とは思うけれど、スコットが用事があるのなら、とゴードンは頷く。
「なに買うの?甘いモノでも欲しくなった?」
ここ最近のスコットの忙しさはかなりなものだ、疲れが溜まってるのかな、などと内心では少々心配しつつ尋ねると、スコットは微かに口元に笑みを浮かべる。
「いや、僕のじゃない」
「あれ、もしかしてリストの他に頼まれちゃった?」
そんなことやらかすのはアランか、と目を細めるゴードンに、スコットは笑みを深める。
「違うよ、僕の勝手な買い物」
そう言いつつ、何やらを手に取る。
「でも、スコットのじゃないって」
「最近、皆忙しくさせてるから。まあ、子供だましなんだが」
笑みに、少しだけ苦いモノが加わる。
「……ソレ、誰の好物?」
誰からも聞いたことは無いけれど、スコットのことだ、弟たちのことを本当によく見ている。
「これはバージル」
「へえ」
バージルとはなんだかんだで一緒にいることは多いけれど、今、スコットが手にしているのは聞いたことが無い。多分、特に口にしたことは無いのだろう。
それを、いつの間にやら見て取っているのだからスコットらしい。
ゴードンは、ちょい、と首を傾げてみる。
「じゃ、アランは?」
「アランは……コレだな。ジョンはコレ」
やはりというか、最近では滅多に地上に降りて来ないジョンのこともしっかりと把握している。
「ケーヨはコレで、コレはブレインズ」
うん、ぬかりも漏れも無い。
そこまでカートに入れたところで、スコットは、はた、とした顔つきになる。
「そうだ、ゴードンは」
「僕は、今日は来てるんだし自分で選べるから大丈夫だよ。スコットの気持ちだけで充分」
にんまり、と笑い返す。
実際、こうして皆の細やかな好みまできちんと見てくれているのがわかっただけでも、なんだか心はほかほかと暖かい。
そんな場に、一緒にいられるのは嬉しいと思う。
だから、自分の分を買ってもらうとかよりも、やりたいことがある。
「それよりさ、僕もお願いがあるんだけど」
「なんだ?」
首を傾げてくれるのに、ゴードンはちょっと肩をすくめて拝んでみせる。
「悪いんだけどさ、ちょっと見てきたいモノがあったの思い出しちゃって。行ってきてもいいかな?」
「ああ、もちろん。会計はしとくよ」
にこり、と頷くのへ、もう一度拝む。
「ゴメンね、すぐ戻るから」
そして、急ぎ足で目的の場所へと向かう。
スコットがいつも、弟たちに目配りをしてくれているのと同じように、ゴードンだって兄のことを見ていたいと思う。少しでも、その助けになれるように。
そう思っていることを言うつもりは無いけれど、こんな風に目前で見せられたら、やはり少しは返したい。
あまり待たせてしまうは本末転倒なので、ゴードンは更に足を速める。

「ごめんね、お待たせ」
ゴードンが戻ると、スコットはちょうど荷物をつめ終えたところだったらしい。こちらを見やって、目を軽く瞬かせる。
「随分と早かったな。ちゃんと、見たいモノ見て来れたのか?」
「うん、たいしたことじゃないからさ。あ、袋持つよ」
声をかけるが、スコットはなぜか首を傾げる。
「んー」
謎の煮え切らない返事に、ゴードンも首を傾げる。
「少しは持たせてよ?」
「ん」
相変わらず不可思議な返事を返し、スコットは歩き始めてしまう。
「スコット?」
背の高いスコットは当然歩幅も広い訳で、それを生かしてすたすたと行くモノだから、ゴードンはちょっと早足で追う。
「ねーえ、スコットったら」
店の外まで行ったところで、もう一度声をかけると、やっとスコットは振り返る。
それから、片手を空けて、何やらポケットから取り出す。
「ま、荷物はともかくとして、コレ」
差し出された何かが、ゴードンの手のひらに置かれる。
「あ」
思わず、目を瞬かせる。
小さなお菓子は、誰にも好きだと言ったことが無いモノだ。まあ、たまに食べたくなるちょっとした味、というところなので。
まさか、コレを知られているとは。
「子供だましだけどな」
照れくさそうに笑うスコットに、ゴードンはにっこりと笑い返す。
「ううん、嬉しいよ。たまに、妙に食べたくなるんだよね、コレ」
「そうか」
スコットも、ふ、と口元を緩める。
「ありがとう」
ちゃんと伝えると、更に笑みは大きくなる。
「じゃ、荷物」
手を差し出すと、大人しく今度はいくらか渡してくれる。それを片手に、スコットの方手も空いたのを見ながら、同じくポケットに入れてあったモノを取りだす。
「ね、スコット」
「ん?」
「はい、コレ」
スコットは、驚いたように目を瞬かせる。
「僕?」
「そ、はい、受け取って」
空いた手に、少々強引に、その小さな包みを押し付ける。
驚いたような顔つきのまま、一応は包みをスコットが手にしたのを見届け、さっさと反対の手の荷物を取り上げる。
ゴードンの行動で、何を促されてるのか悟ったスコットは、小さく首を傾げる。
「開けてもいいか?」
「もちろん」
頷き返すと、ちょっと洒落たテープでとめられているだけの包装をあっさりと開く。
「ハンカチ?」
「うん、こないだのレスキューの時、ケガした子の応急処置に使っちゃって、ダメにしちゃったでしょ?」
種明かしをすると、もう一度瞬いてから、ふわ、とスコットは笑み崩れる。
「ありがとう、ゴードン。良い色だな」
「そう?気に入ったなら良かったよ」
そう返しつつ、ゴードンも笑みを抑えきれない。
ゴードンの好きなお菓子に気付いていてくれたことも、選んだハンカチを喜んでくれたことも嬉しいけれど。
何より、スコットがこんなに優しい笑みを浮かべてくれるのが嬉しいから。



2015.10.28. He goes for shopping with his brother. Ver.G

■ postscript

ゴードンはニコニコしつつ相手をちゃんと見てる人だと思ってます。

[ Index ]