□ お兄ちゃんとお買い物 Ver.V
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たまにはスコットものんびり買い物することがあってもいいだろう、と荷物運びはすべて引き受けるつもりでバージルはついて来たのだが。
皆が用意したリストを見て、思わず眉を寄せる。
「どうした、バージル」
不思議そうに首を傾げるスコットに、端末を向ける。
「あー、僕が来るってんで、皆調子に乗った」
リストに重量級の物が並ぶのを見て、スコットも苦笑を浮かべる。
「なるほど、重いモノならバージル、という訳か」
「悪い、僕が運ぶから」
「まあ、先ずは全部揃えてみようか」
大き目のカートを引き出したスコットは、軽く肩をすくめつつ振り返る。
すでにリストアップされてしまっている以上、スコットの言う通りなので、バージルも肩をすくめ返しつつ頷く。
「FAB」

そんな訳で、リストアップされたモノを探してはカートに入れる作業をしているのだが。
「コレ、普段なら絶対に小さい方の買ってるだろ」
バージルは、思わず言ってしまう。
なんというか、ドレもコレも大きい。
普通なモノは生鮮食品しかないのではないか、と思うほどに、大きい。
「皆、バージルのことを頼りにしてるんだよ」
苦笑気味にスコットが言いつつ、やはり何やら大き目の袋をカートに入れながら、ふむ、というように頷く。
「確かに、バージルが買い出しと聞くと、僕もついつい、大きめのを頼んでしまってるかもな」
「スコットが頼むのは自分のモノじゃないじゃないか」
実際、スコットが自分のモノを頼んでいるのを見たことが無い。そんなあたりを気にされては、さすがにバージルも気恥しくなってくる。
どうも、スコットの前だと甘えたことを言ってしまうな、と自分に苦笑しつつ返す。
「必要なのは良いんだよ、僕が力あるのもホントなんだし。グチっぽくなって悪かった」
「この程度、グチには入らないよ」
スコットは、にっこりと笑いつつバージルの肩に手をやる。
「ついでに、何かあれば言っておくといい。聞いてるのは僕だけだから」
そのたった一人が大問題だ、とバージルは思う。
バージルに取って負担だと判断した途端、あっさりと自分がどうにかしてしまう。
今以上に多忙にさせたら、過労で発熱なんてことじゃ済まなくなる気がするし、そもそもその前にジョンにどやされる。
「はは、別に無いよ。まあ、たまには荷物重いのばっかり、なんて言うかもしれないけどさ」
肩をすくめて返すと、スコットは少し首を傾げてコチラを見やる。
「そうか?」
「ああ、他の店も行かなきゃいけないし、さっさと済ませよう」
「FAB」
あっさりと返すと、スコットもリストへと視線を戻す。

会計を済ませて、一度、車へと荷物を運ぼうと見やって、え、とバージルは瞬く。
先程袋詰めしたものの、ほどんどが無い。
というか、すでにスコットの手にある。
「スコット?」
「車に一度戻ろうか」
眉を寄せて声をかけたのに、スコットはのんびりと返しつつ歩き出してしまうので、慌てて追う。
「いやいやいや、僕も持つから」
「うん、残ってるの持ってくれ」
あっさりと言ってくれるが、残ってるのは、あと一袋だったりする。もちろん、それは手にしているが。
「配分、おかしいだろ」
「そうか?持てるから持ってるだけだぞ」
いや確かに、重量級とはいっても数は無かったけれど。どう考えても、スコットの手にはかなりな重量がかかっているはずだ。
「僕が運ぶだろうって、リストアップされてたんだし、持つよ」
それでなくとも日頃から忙しいのに、更に重量物を運ばせるなど、正直バージルの心臓に悪い。
が、にっこりとスコットは笑う。
「いいじゃないか、誰が運んだかなんて、誰も見ていないんだし。それに、たまにはお兄ちゃんにいい顔させてくれよ」
ああもう、とバージルは思う。
皆に頼られるのは、正直嫌いじゃない。いや、どちらかといえば、嬉しい。
けれど、重いモノといえばバージル、という出来あがってしまった図式も、時には少々食傷気味にはなる。
そんなあたりを、あっさりと察された上に、コレは。
「あー、うん、わかった。でも、後の店はちゃんと僕にも運ばせてくれよ?僕だって、いいとこ見せたいからな」
参った、と両手を上げつつ返すと、スコットの笑みが大きくなる。
「いつも、バージルのいいところは見せてもらってるよ」
思わず、赤面して口元に手をやる。
ひとまず、どうやって続きの買い物では、荷物をちゃんと奪い取ろうか、とバージルは考えを巡らせ始めるが、すぐにやめることにする。
スコットのことだ、やりすぎればバージルが気にするのを察して、適当に渡してくれるのだろうから。
全く、本当にこの兄には敵いそうにない。



2015.10.29. He goes for shopping with his brother. Ver.V

■ postscript

たまにはバージルも弟の日。

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