□ お兄ちゃんは寝ている Ver.J
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一号がエンジンの出力を可能な限り絞りながら、水平飛行から垂直へと切り替えて降りていく。
トレーシー島の時計が指すのは、すでに深夜の2時を回ったところだ。
レスキューを終え、現場の上層部とやらとの面倒やり取りを引き受けたスコットだけが遅くなった。
深夜出動も珍しくはないし、元々防音はしっかりしているので兄弟たちが起き出してくることもない。
一号の機体は、そうはかからず定位置に停止し、スコットを迎えるべくステージも伸びてくるが、ハッチは開かない。
完全に機体が停止したと確認したスコットは、夜には自動で行われるようプログラミングされた自動機体保安整備機能が作動しだす音を聞きながら、コックピットの椅子の上に足を抱え込むように上げてしまう。
窮屈そうに見えるが、当人は落ち着くらしく、何やらぼうっとした顔つきで考えに沈んでいるらしい。
誰も起きていないのがわかっている時、スコットはこうしてしばらく一号にいることがある。
そんな時の表情はけして厳しくない。
なんとなくだけれど、どこか寛いでいるように見える。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
なんせ、兄弟たちにとって愛機は大事な相棒であり、片腕でもあるのだ。度合いはいくらか違うかもしれないが、安心出来る場所なのだろう。
それに、音らしい音が無い自室よりも、活動している、というように響く機械音と軽い振動が心地いいのかもしれない。
ああ、ほら。
今日もいつの間にか、スコットは船を漕いでいる。
ふわ、と中空に現れたジョンは、そっと顔を覗き込む。
やはり、その顔はいつも部屋で一日を終える時のような難しいモノではない。
穏やかに眠れるのなら、場所がベッドであろうとなかろうと、些細な問題だ。
ジョンは遠隔操作で一号のコックピット内の照明を絞り、空調を調整する。
どうか、朝まで穏やかに眠れますように。
ささやかに祈りながら、ホロの自分がスコットに並ぶように腰をおろして、同じように膝を抱えて瞼を閉ざす。
きっと、今晩はジョンが見るのも穏やかな夢だ。



2015.12.14 Scott sleeps tonight. Ver.J

■ postscript

よりみちさんの素敵絵から。
杉丸さん、お誕生日おめでとうございます!!の思いだけは籠っております。

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