□ 赤い花の日
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昼の定時連絡に浮かび上がった兄の姿が、軍装であることに目を見開く。
「スコット?」
『どうしたジョン、緊急のレスキューか?』
低く抑えられた声で尋ねられ、何か要件の途中だと気付いてすぐに返す。
「いや、レスキューは無い」
『そうか、では後で』
ふつり、と通信は切れる。
あれは空軍の正装だ。どうしたのか、と首を傾げはするが、結局はわからないままに時間だけが過ぎる。
家では軍にいたことなど、おくびにも出さないスコットだ。
何度か勲章も取ったと父から聞いたことはあるが、その欠片もうかがったことはなかった。
だからか、制帽の影が落ちた表情が酷く暗く見えて、心のどこかが落ち着かない。
レスキューに発展しそうな案件を追いつつも、集中出来ないままに時間が過ぎていく。
スコットから連絡が入ったのは、夕方になろうとする頃だ。
相変わらず、空軍の正装を身に着けたままの顔には苦笑が浮かんでいる。
『悪かった、留守にする連絡を入れていなかったな』
「いや、大丈夫だ。その、今日は?」
スコットの胸に揺れる赤い花に目を奪われつつも尋ねると、その顔から笑みが消える。
『ポピーデーだ、第一次世界大戦の終戦日だよ。式典に参加してた』
「ああ、それはポピーなのか」
胸に揺れる花を指すと、スコットは無表情に頷く。
『多くの血が流された戦場に、いっぱいに咲いたとされてる』
手向けの花だと、暗に告げられる。
ただ、兄の胸に揺れる花は、かつての軍人たちに捧げられたようには、なぜか見えなくて。
「……鎮魂の花だね」
そう告げると。
スコットは、微かに口の端を歪める。
『そうだな』
微かな風にも揺れるその花は、何に手向けられているのだろう。
ジョンは、なぜかその花から目が離せなかった。



2015.11.11 Poppy Day

■ postscript

それは英国軍だろって話は言うだけ無駄ってヤツです。

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