□ ヒーロー心得
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ものすごく頑張ったと思う。
いや、間違いなく頑張ったと思う仕事の仕上げは、なんともはや、おばあちゃんのクッキーだったのだ。
普通に美味しいアップルパイもついては来たけれど、あのクッキーの後でどの程度リカバリ出来るかなんて、MAXにもわかるまい。
もっか、最も最大の謎は小麦粉と砂糖とバターがほとんどの成分のハズのクッキーが足の臭いをさせることだとは思うが、その点は誰にも謎が解けないので、次だ。
次の疑問を解くしかない。
「ね、スコット」
「ん?」
アップルパイとブラックコーヒーを片付け終えたスコットは、いつものように首を傾げてみせる。
「その、悪い言い方だったらごめんね?どうして、スコットはおばあちゃんのクッキー、普通に食べられるの?」
アランの問いに、スコットはきょと、と目を瞬かせる。
「え?僕が平気で?まさか?」
「だって、いつも、ちゃーんと一枚は食べてるよ?」
正直、アランはいつも一口目の途中でげほげほとむせてしまって、最後までは食べられない。けれど、その間にスコットが自分のを片付けて、それでいいでしょ、ということにしてくれてしまうのだ。
確かに、眉は寄っているし表情だってこわばってはいるけれど。
でも、派手にむせるゴードンはおいとくとしても、あからさまにマズいを顔に表すバージルよりも、ずっと平気な顔をしている。
「んー、普通には食べてないと思うけど、でもやっぱり、あんなんでもおばあちゃんが一生懸命作ったモノなんだって思うから、かな?」
「おばあちゃんが、一生懸命……」
「とはいえ、アランが無理することは無いよ、アレは本当に酷い」
スコットにしては、実に直截におばあちゃんのクッキーを評したのだが。
だけど、アランにとっては目からウロコだった。
そうか、アレでも一生懸命、愛情をこめているのだ。それを知っているから、スコットは顔を引きつらせても最後まで口に出来るのだ。
「うん、わかった」
こく、と素直に頷いたけれど。

アランはそれから、一枚は少なくとも、おばあちゃんのクッキーを食べられるようになった。
スゴイな!とバージルとゴードンに言われたけど、理由はヒミツだ。だって、とても簡単なんだから。
スコットみたいに、カッコよくなりたい。
ただ、それだけのこと。



2016.01.28

■ postscript

杉丸さんより、アーちゃんとお兄ちゃん、グランマクッキーを囲んで。リクエストありがとうございました!

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