□ それもレスキュー
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レスキューが無事終わった、と判断したバージルが声をかける。
「アラン、ポッドを回収する」
『待ってバージル、なんかいる!』
アランの声に、バージルの表情は一気に硬化する。
「レスキュー漏れか?!」
『ううん、人じゃない、あ、ネコだ』
声とともに、ホロのアランの手には泥だらけのネコが現れる。
『もしかしたら、レスキューした人の飼い猫かもだけど』
「そんなこと、言ってる人はいなかったな」
『でも、このまま置いてったんじゃ……』
しょぼん、と声も眉も落ちるアランも、その手の中でいくらかくったりとしてるネコも、バージルには見捨てることなど出来る訳もない。

珍しくも冷徹な表情で迎えたのはスコットだ。
「僕たちには動物は飼えない、わかっているな」
「うん、でも……」
「もちろん、レスキューは別だ。だが、飼えない。それだけわかっているのか確認しただけだ」
それから、アランの腕の中の小さな命を覗き込む。
「まだ小さいな、ミルクから試した方がいいだろう」
それだけ告げると、背を向けてしまう。
「ミルク……」
すがるように視線を向けてきたアランに、慌ててバージルは返す。
「あ、うん、冷蔵庫にミルクあったかもな?」
『猫に人のミルクは禁物だよ』
突如加わった声に、びく、と体を揺らして見返れば、ホロのジョンがいる。
『ケーヨにたのんで、ネコ用ミルクを買ってきてもらうことだね』
それだけを告げると、あっさりと姿が消えてしまう。
顔を見合わせたバージルとアランは、頷きあう。そして、すぐにバージルがケーヨの元へと向かう。

幼い猫だったけあって、それからはなかなかだった。
ネコ用ミルクをただ与えればいいのではなく、適温でなくてはならなかったし、排せつの世話だってしなくてはならなかったし。
それを、バージルとアランは、一生懸命にやった。
比較的マメにゴードンとケーヨが手伝ってくれたおかげで、どうにかなったように見えるが、その実、手は出さないが折々にポイントを教えてくれるスコットとジョンの助力は大きい。
すっかり元気になった子猫の遊び相手をしてやりつつ、アランがぽつりと言う。
「スコットもジョンも、子猫の世話に詳しいよね?」
「まあな」
トレーシー島では飼えない。
スコットがそう宣言する限り、どうやったってひっくり返らない事実はわかっている。
それに、スコットがそう口にする意味もわかっている。
だから、この子は明日、新しい家に行く。
「ねぇ、ゴードン、ネコって飼ったことあった?」
「いや、無いと思うけどな?」
「そう??」
アランは、首をしきりと傾げるが、それ以上は尋ねない。

翌日。
子猫を新しい家族の元へと、二号で届けた後。
帰路は、やはり寂しい。
隣に座ったアランは、黙りこくったままだ。が、かける言葉が見つからず、ゴードンも黙ったままでいる。
兄としては、ちょっと情けないかな、と思った、その時。
まるで稲妻でも落ちたかのように思い出された、ヒトツの記憶がある。
まだまだ幼かったバージルが拾い上げた、小さな命。
親猫がどこかで命を落としたのか、見捨ててしまったのか、それはわからない。
あの頃は大きな農場の主だった家にとって、その子が健康であったなら普通に飼えたのだと思う。けれど、バージルが拾い上げた子は病を持っていた。
医師に預けなさい。
そんな、兄たちの言葉に逆らった。
僕が助ける、僕が育てる。
必死に子猫の育て方を調べ、世話してくれたのは兄たちだった。でも、病には勝てなかった。
冷たくなってしまった小さな体を、まだ温められると言いたげに抱きしめていたのは次兄だった。救えなかった、すまない、そう深々とバージルに頭を下げたのは長兄だった。
ああ、兄たちが猫の世話に詳しいのは当然だったのだ。
思わず唇を噛みしめそうになった、その時。
「バージル、あの子にいい家族が見つかって良かったね」
そんな声に、思わず視線を上げる。
子猫を手放して、寂しい訳がないのにアランの顔には笑みが浮かんでいる。
「あの子、幸せになってくれるかな」
「ああ、もちろん」
だって、そう祈るのはアランとバージルだけではない。手伝ってくれたケーヨもゴードンも。
それから、距離を置きつつも肝心な部分はけして外さなかった兄たちも。
あの子の幸せを祈ってくれているのだから。だから、あの子は幸せになるに、決まっている。
バージルの笑顔に、アランの笑みも大きくなる。



2016.02.22

■ postscript

金具さんより、バージルとアランがレスキューでにゃんこ拾いました編。リクエストありがとうございました!

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