□ 欠けるお日様
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今日もお勉強を済ませなさいと皆に言われて、実に不満そうに端末と向き合っていたアランが、ぱあっと顔を輝かせる。
「今日、部分日食だって!」
ラウンジのソファに腰掛けて本に目を落としていたスコットが視線を上げる。
「ほう?」
「ね、見てみたい。科学は実地も大事、でしょ?」
アランがわざわざ区切って言ったのは、前にスコットが言ったことだからだ。
小さく肩をすくめつつスコットがか返す。
「確かにその通りだな。たしかパパの机に日食グラスがあったはずだからもっておいで」
「うん!」
機嫌よく立ち上がったアランは、うきうきと父の机を探って日食グラスを探し出してきたのだが。
ケースを開けたところで、通りがかったブレインズがのぞき込んでくる。
「あ、こりゃダメだよ、アラン。コーティングがすっかりダメになってるよ」
「えっ?!」
ぎょっとアランが目を見開く間に、スコットものぞき込んでくる。
「ああ、コレでは目を痛めてしまうな」
「あー、じゃあ、日食は見られないのかぁ」
あからさまにしょんぼりと肩を落とすアランに、スコットは苦笑を浮かべる。
「まあ、そうでもないさ」
「ホント?!」
「太陽を見上げるのは無理だけどな」
向けられた背に、アランはむうと唇を尖らせる。
「ほら、やっぱり見られないじゃないか」
父の机から、スコットが手にしてきたのは紙と目打ちだ。
さらにアランの頬がふくらむ。
「ちょっと、ソレ切り取って日食とか子供だましは」
が、隣のブレインズは顔を輝かせる。
「なるほど、その手があったね。ある意味、太陽見上げるより面白いんじゃないかな」
「えええ?」
アランは、口の端を持ち上げるスコットとブレインズを交互に見やるばかりだ。

そろそろ日食の時間だ、とプールサイドに出てきたのは三人だけではない。
紙を持って日食を観察するというのが気になったらしいケーヨもだ。
スコットが手にした紙には、目打ちでいくつもの穴が開けられている。
ソレを日に当てると、だ。
床に木漏れ日のように日の光が落ちる。
「そりゃ、穴が見えるよね。あけたんだもん」
何がしたいのさ、というのがありありの声をあげるアランに、ブレインズが尋ねる。
「そうだね、カタチはどうかな?」
「丸に決まってるじゃん!三角にでも見えるの?!」
地団駄踏みそうないきおいのアランの脇で、ケーヨも戸惑った顔つきだ。
「たしかに丸ね」
「そう、丸だ」
まるで確認するかのようにブレインズが繰り返し、時計に目をやったスコットが告げる。
「始まるぞ」
なぜか、スコットとブレインズが丸い光たちから目を離さないモノだから、アランもケーヨも仕方なく見つめていると。
「あ!」
「欠けてきたわ?!」
ゆるゆるとだが、確実に丸かったはずの目打ちの光は一部がくっきりと欠けていく。
月が欠けていくかのように。
「そうさ、目打ちの穴は丸いだろ?でも日食の光を通せば欠けるのさ」
得意そうに説明してくれるブレインズをよそに、アランは光の変化から目を離せない。
いくつもの穴から落ちる光すべてが日と同じように欠けていく。
やがて、満ちていくのもしっかりと見届けてから。
「スコット、スゴいよ、面白かった!ありがとう!」
満面の笑みで飛びつけば、スコットは優しく受け止めてくれる。
「こんなふうになるなんて…知らなかったわ、驚きね」
ケーヨもキラキラと笑う。
「楽しめたなら何よりだ」
にこり、とスコットが笑う。



2016.03.09

■ postscript

部分日食当日に移動しながら書いてました。

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