□ 命を守るということ
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もう、とにかく嬉しかった。
なんせ、やっとレスキュー現場に出してもらえたのだ。
二号に同乗で、基本的にはバージルのサポートという形だったけれど、アランは俄然張り切った。
当然だろう、兄たちの活躍をラウンジから見つめるばかりの日々だったのだから。
厳しく出動を制限してきたスコットも、1号に搭乗して間近に見ているのだから、絶対に華麗にやってのけて認めさせてやる。
今回ですら、出動に懐疑的だった5号で見守っているジョンにも、もちろん、だ。
ぐ、と強く手を握ってから、2号から降ろされつつレスキュー現場を見下ろす。

完璧にやれたはずだった。
だって、皆、無事に救い出したのだから。
なのに、島に戻ったアランの目前にあるのは温度の無いスコットの表情だ。
声は、零下としか言いようのない冷えっぷりだ。
「アラン」
それだけでも、震えあがれるほどの。
びく、と自然と肩が震える。
「なぜ、言った通りにしなかった?」
意味はすぐに理解出来る。
レスキューの人々をエレベータに乗せた際に、安全ベルトをつながなかった件だ。
風もなかったし、持ちあがる距離もほとんどなかった。
そもそも、エレベータにしたのが不思議なくらいの距離だったのだから、安全は保障されたも同然だった。
実際、誰も怖がらなかったし、むしろベルト装着は嫌がられただろう。レスキュー時間の短縮にもつながったはずで、むしろ褒めらるべきことだとアランは思っていた。
なのに。
「だって」
思ったことをそのまま口にしようとしたのに、言葉はその視線で封じられる。
「アラン、やはりレスキューへの出動は認められない」
低く、だが、きっぱりと告げられる。
今や、インターナショナルレスキューの実質のリーダーであるスコットに告げられてしまえば、それは動かせない事実だ。
他の兄たちに頼んだとしても、絶対に連れて行ってはもらえないだろう。
思わず頬を思いっきり膨らませつつ言い返す。
「なんでさ!皆喜んでたのに!」
「レスキューの意味が分かっていないヤツを連れていけるかッ!」
それは、まさに霹靂だった。
脳天から、ぴしゃりと叩き付けられる言葉。
言葉だけなのに、派手に殴られたよりずっと痛い。
本気で怒っているのだと、声が目が告げている。
それ以上、たった一言すら付け加えることもせず、スコットは背を向けてしまう。どんな言い訳も、どんな懇願も拒絶する背。
取り返しのつかない失敗をしてしまったのだとアランが気付いたのは、その時だった。



2016.03.13

■ postscript

お兄ちゃんが本気で怒るとしたら、こういうことじゃないかなと。

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