□ ピアノと歌と
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4号単独のレスキューから戻ったゴードンは、階段をあがりながら軽く首を傾げる。
そして、すぐに理解する。
聴こえてくるのはHappy birthday to you、誕生日の定番曲のジャズ風アレンジだ。となると、弾いているのは一人しかいない。
バージルだ。
相変わらず、器用なものだ。
確か昨年はマーチ風だったし、一昨年はバラード風だった。正確ではないかもしれないけれど。
いつの頃からか、兄を祝う時の件の定番曲は、何かアレンジされるようになっている。キッカケがなんだったのかゴードンは知らないけれど、同じ曲が良くもまあコレだけ雰囲気が変わるものだ、と毎年新鮮な驚きをもらうので、好ましい趣向だ。
ちょっと大人な雰囲気になった曲を聴きながら、気分よく階段を上がっていたのだったが。
途中で加わった別の音に、おお、と天を仰ぐ。
実に機嫌が良さそうな、だが、なんとも絶妙に微妙に外れたリズムで続く歌声は、これまた間違い用の無いバージルの声。
ゴードンが、もはや世界の七不思議に数えて良いと思うことのヒトツ。
あれだけ音感が良く、様々な楽器を弾きこなすバージルが、唯一、完璧じゃない音楽関連のコト。
それが、歌だ。
致命的にヘタクソだとは言わないが、明らかに微妙なのだ。
なんというかこう……背中がかゆくなる感じというか。ピアノが上手すぎるせいもあるのだとは思うけれど。
もちろん、スコットはバージルのピアノも歌も喜ぶに違いない。それは絶対に間違いない。
けれど、ゴードンとしてはせっかくの誕生日のお祝いの歌をバージルのピアノだからこそ、にしたいのだ。
ワガママだとは重々承知で。
だって、あんな素敵なピアノだから。
だから、にんまりと笑って拍手をしつつ、ラウンジへと入る。
「やあバージル、今年もさすがだね、ジャズ?もちろん、僕も参加させてくれるんでしょ?」
楽器は遠く及ばないけれど、歌にだけは自信がある。
もちろん、どんなアレンジが来たとしても、だ。
今年はジャズ、上等だ。
情感豊かに歌い上げてやろうじゃないか、バージルのピアノが最高に輝いて聴こえるように。



2016.04.04

■ postscript

人様よりのお題頼りの兄ちゃん生誕祭で、D-3さんよりVさんのピアノと歌です。お題ありがとうございました!

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