□ 側にいるという約束
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ああ、人の体は面倒だ。
そんな感慨しか浮かばず、スコットは面倒そうに視界を遮りそうな赤い液体を腕でぬぐって払う。
額のどこかから血が流れてくると言うことはメットは壊れて無い訳だが、そんなことはどうでもいい。
振り返ってにこりと微笑んで、死の恐怖に怯える人々を安全な場所へと導く。

今日のレスキューも、あっさりと済んだと思う。
問題があるのだとしたら、ヘルメットの強度だろう。あの程度の崩落はよくある話だ。ヘルメットがその程度で壊れてしまっては困る。
ブレインズとの議論案件だ、と思いつつ1号のコクピットを開けたらば、だ。
それはもうイイ笑顔でジョンが仁王立ちしているではないか。
つい、とそこまで引き込まれた台座のスコットの腕を、ぐい、と引く。
「スコット、僕との約束は覚えてるよね?」
体調が悪い時には絶対に面倒を見るから、側を離れないから。
思わず瞬いたスコットは、それから笑ってしまう。
「なんだよ、そんなオカシイ?」
不機嫌そうに眉を寄せるジョンに、スコットは首を横に振る。
「違うよ、そうじゃない」
腕を引かれるままに、素直に体を寄せて、そして。
「ああ、ホントに来てくれたんだなって思ったんだよ」

兄の不可思議な言葉に、ジョンの不機嫌は最高潮だ。それでなくとも、こんな酷い怪我をして。
「当然だろ、何言ってるの」
「だって、ジョンは5号にいるのが何より好きだろ?」
敏感な兄には基本的に隠し事は無理だ。だから、ソレは知られて当然の事実で。
なのに、最も肝心なヒトツは伝わってない。
けれど、ジョンが降りたことに酷く兄が嬉しそうに笑うモノだから。
やはり今回も、もっと自分を大事にしてとは言えないまま。
ジョンは、そっとスコットを抱き寄せる。
「言っただろ、スコットが体調が悪い時は別」
「そっか」
スコットの笑みが深まったのを、自分に都合良いようにとることにしてジョンはもっと強く抱き寄せる。



2016.04.09

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