□ ヒミツの唇
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乾燥地帯や高温地帯のレスキューが連日連夜で続いた後。
ラウンジに戻ってきたスコットの顔が、冴えないので声をかける。
「さすがに疲れた?」
「いや、疲れてはいないんだけど。唇が割れちゃってね」
困ったように笑うスコットの口元は、確かに赤が滲んでいる。ブレインズ設計のスーツにヘルメットは、色々なモノから私たちを守ってくれるけれど、さすがに保湿機能はついていない。
そのことは、私自身が経験して知っていた。
「あら、痛そうね」
そっと血の付いたところをティッシュでぬぐえば、スコットの苦笑は深くなる。
「悪いな、ケーヨ」
「あんまりしゃべらない方がいいかも、また割れそう」
本当に乾燥している彼の口元に本気で心配して告げれば、スコットはイタズラっぽく口を閉ざして頷く。
けれど、またその口元は赤を滲ませているので。
どうにかしてあげたい、そう思って解決を思い付いて。
でも、それは。
自分が使っているリップを貸すというもので。
どうしよう、と内心で首を傾げる。
私が口につけているモノだ。
スコットは嫌じゃないかしら。
でも、本当に潤うのだけれど。
色々な考えがぐるぐるっと回っていると、スコットが少しだけ不思議そうに首を傾げている。
ええい、ままよ。
だって、あの赤を見ているのはツライんだもの。
心を決めて、ポケットに入れているソレを取り出す。
「これ、私が使ってるリップ。とっても潤うわよ、多分、割れなくなるわ」
そう言って差し出すと。
案の定、首の角度が大きくなる。
「でも、ケーヨのだろ?」
「うん、気にしないでくれるなら使って。色は入ってないから」
「わかった、ありがとう」
スコットはあっさりと受け取ると、さっと唇に走らせる。
カバー力のあるソレが、あっさりと赤を止めてくれたのに安心して笑うと。
スコットが困った顔になる。
「ごめんな、大事なの貸してもらって」
「ううん、血が止まって良かった」
返せば、笑みが浮かぶ。
「ありがとう」
「いいのよ」
さっと、何気なく返してもらう。スコットが、ふき取ってしまったりする前に。
大事なソレを、いつ使おう?



2016.05.03

■ postscript

ねつ造とニーズの無さ度がカンストしている、SK話、リップを巡るちょっとした事件編。

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