□ その笑みの重み
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いつものようにラウンジのソファに座り込み、やたらと難しい顔つきでスコットのレスキューの成り行きを見つめているアランに、ジョンは少しだけ呆れた声をかける。
「アラン、昨日、ちゃんとレスキューに出ただろ?今日行けなかったからって、そんなに不機嫌になるなよ」
『へ?』
珍しく、きょと、と目を瞬かせるアランに、ジョンはおや、と内心で首を傾げる。
不機嫌としか思えない顔つきだったのだが、どうやら今日の理由は違うらしい。
「ものすごく難しい顔してたぞ」
と、水を向けてみれば。
『え、あ、ごめんね?ちょっと考え事してて』
素直に返した弟は、また、むー、と兄のレスキューを見上げる。
あと、少し。
二人を引き上げてしまえば、このレスキューも完了だ。ジョンがアランに声をかけたのも、余裕があるからだ。
今のところ危なげなくスコットはレスキューを続けているし、周囲の状況も悪化はしていない。ジョンがサポートする必要があるとすれば、皆、助け出して1号の機体を浮上させる時だろう。
それを確認してから、アランへと再び声をかける。
「スコットのレスキューが何か?」
『あのさ、助けた人を安全なとこに連れてったとこでさ、ほら笑うでしょ』
アランがほら、と言った通りに、スコットはちょうどレスキューした相手に笑いかけているところだった。
『もう、大丈夫ですよ』
穏やかでそれでいて、絶対に安心と告げる笑み。助けられた人も、ふうっと表情を緩める。
時に、それまで緊張で抑えられていた恐怖を思い出して泣き出してしまう人もいる。けれど、それはやっと気を張らなくてよくなったという証拠で、普通の感情が戻ってきた瞬間なのだ。
『あれがね、スゴいなーって思って。スコットが笑うとね、みーんな、安心したってなるんだ。昨日ね、僕も笑ってみたけど、ダメだったなぁって』
しみじみとした声に、ジョンは軽く瞬きをする。
確かにスコットのレスキューは当人がどんなに無理をしていたとしても、レスキューする相手に対する態度はいつも堂々としていて安心感がある。
「まあ、アランはまだ場数が足りないところはあるかもしれないな」
これを言い過ぎると、もっと出して!ということになるので、慎重な口調で返す。が、今回はソチラの琴線には触れずに済んだらしく、大人しく頷く。
「でも、バージルもゴードンもあんな感じのような気もするが」
『スコットはやっぱり特別だよ』
確信したアランの声に、それはアランのお兄ちゃん補正があるからじゃ、と思う。年の離れた長兄は面倒見がことのほかいいので、他の兄たちより少し尊敬の念が強いからでは、と。
『だってさ、もう、ホント、温かくって頼もしくって、助かったんだ!って思えるんだもん。僕が助けてもらったんじゃなくてもさ』
アランの声と共に、スコットが最後の人をレスキューして無事に安全な場所へと降ろして、微笑む。
改めてじっと見つめてみたジョンも、思わず目を瞬かせる。
どこが、とか、何が、とかは説明できないけれど。
「確かに、アランの言うとおりかもしれない」
『でしょ、僕もいつか、ああいう風になりたいな!』
「ああ、頑張れよ」
その言葉は、ジョンの口から自然と出た。それくらいに、アランの言葉は心からのモノだった。
さて、のんびりしていられるのはここまでだ。
ジョンも、すっと顔を引き締める。
「じゃあ、アラン。また後で」
『うん!そうだ、スコットになにか飲み物とか用意しておこうかな?』
カッコよかった兄になにかしたいらしく、ぴょん、と立ち上がるアランを見送ることはなく、ジョンは音声を切り替える。
「スコット、全員レスキュー済んだようだね」
『ああ、1号を離脱させる』
「気象データを送る、慎重に頼むよ」
ジョンが返せば、にっと笑みが返る。
『もちろんだ、ここで失敗すればレスキューの意味が無い』
「わかってるならイイけどね」
エンジンのパワーと、機首の向きを慎重に決める兄の顔は真剣だ。そして、ふわり、と1号は浮き上がり、レスキューした人々の乗る船を、ひら、とさえ揺らさずに距離を取る。
そして、完全離脱前に、笑みがこちらを見やる。
『どうかな、ジョン?』
その笑みは、助けた人々に向ける安心感のあるモノと絶対の自信が混ざったモノで。
「お見事」
自分にだけ向けられる笑みに、少しだけ優越感を感じつつジョンは笑みを返す。



2016.06.26

■ postscript

「#ふぁぼしてくれた人の一枚絵で勝手に小話を書く」、杉丸さんのお兄ちゃん立ち絵(塗り絵様)で。

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