状況を伝えるジョンの顔は渋い。
少し難しい顔だが、スコットはあっさりと立ち上がる。
「よし、僕が行こう」
確かに、スピードといい小回りといい、1号しかないだろうけれど。
「だが、どうやってワイヤーの先を微調整するんだ？スコットの腕は知ってるが、これはさすがに」
バージルが、ジョンに負けず劣らずの渋い顔で返したのへと、スコットが口を開く前に口をはさんだのはゴードンだ。
「ね、スコット。僕を連れてってよ」
「まってよゴードン、海の上はさ、普通じゃないくらい荒れてるんだよ？」
「そうだ、だから4号をやめたんだろ」
慌てたようにアランとバージルが口々に止める。
レスキュー対象は海の上に浮かんでいる。が、あまりに海が荒れているせいで、海中からの視界がまったく効かないのだ。2号も煽られ過ぎると判断しての、1号出動なのに。
ゴードンは、全く二人の言葉など耳に入っていないかのように続ける。
「荒れてようがいまいが、海のことなら僕が一番知ってる。スコットのワイヤーがものすごく精度いいってのはわかってるよ、だからそこに、僕のイカセンサー加えてよ。重量増やせば、安定度も増すからさ」
『ワイヤーについてくとか、正気か？！』
ジョンがすぐに理解して怒声をあげるが、やはり、ゴードンは耳に入れない。
ただ、まっすぐにスコットを見つめ続けるばかりだ。
ここまで、黙ったままゴードンを見つめ返すばかりだったスコットが頷く。
「よし、イカしたイカセンサーで頼む」
「りょーかい、そうこなくっちゃ！」
にっと親指を立ててみせるゴードンと、頷き返すスコット。
スコットがこうして頷いてしまえば、あとは何を言っても丸め込まれるだけだ。時間の無駄を費やすくらいなら、早く動いた方がいい。
そう判断したジョンが、諦め顔で頷く。
『行って、状況が変わっていたら作戦変更だ、それは譲れないよ』
「FAB」
声をそろえたスコットとゴードンは、すぐに発進体制に入るべく走り出す。

荒れ切った海で風に煽られながらも、1号は先ほどからレスキュー対象のヨットの上から絶対に動かない。
『ゴードン、いいか？』
「まかせて、スコット。ここは海だよ？」
頷いたゴードンの顔は、笑みさえ称えている。
『よし、その意気だ。行くぞ！』
あっさりと兄は、ワイヤーを放出する。
自分が重り代わりに飛び出したその先を、ゴードンはまっすぐに見つめ続ける。
そう、空からだろうが中からだろうが、海はゴードンの領域なのだ。
だから、絶対に助けてみせる。
にっと明確に笑みを浮かべた瞬間。
ワイヤーの先は、しっかりとヨットに固定される。同時に、よろめいた人も捕まえる。
「オーケー、スコット！対象確保！」
ゴードンの声は、しっかりと皆に伝わる。



2016.06.26