□ 武装しましょう
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本日のスコットは、スーツでかっちりと身を固めて何やら物憂げな顔つきだ。
「おはよう、スコット」
いつも通りのジョンの挨拶にも、少々疲れた声が返る。
『おはよう、ジョン』
これから兄が向かう戦場がどういう場所か明確は知らないものの、他の情報でおおよそを察することが出来ているジョンは、苦笑を返すしかない。
「今日は御疲れ様」
『ああ』
珍しく素直に返る返事に、苦笑は深まるばかりだ。
本日、スコットが向かう先はレスキューではない。自分たち兄弟の父が立ち上げ、一代で大きく財閥にまでしてのけた企業だ。
インターナショナルレスキューを立ち上げた時点で、父は企業経営からは身を引いたが、慈善ともいえるレスキューを支えるために大株主であり続けた。
ようするに、ここから吸い上げる利益こそが、このインターナショナルレスキューを支えているのだ。過言とかではなく、実際に。
オーナーともいえる立場である以上、一線を退いたとはいえ経営には常に目を光らせ、少しでもおかしいとなれば口を出す。
そうでなければ、運営に足りる資金が得られない。
運営形態が変えられない以上、父が不在の今はスコットが担うほかはない。なので、父がやっていたように、株主総会でなくとも折々に財閥を訪れ、現況の事業の状況を確認するという仕事があるのだ。
元々、惣領息子として扱われてきたスコットは、弟たちに比べて格段に財閥の経営にも詳しい。正直、ジョンにも手に余る事案ばかりなのに、着実に片づけていっている。
そんなスコットに、ジョンは応援しかすることが出来ない。
「今日は、頑張って」
『ああ、やるだけやるさ、でもなんというかあの試すような視線は好きじゃないな』
ようするに、経営者たちはまだ年若いスコットを、少々なめたような目線で見るばかりなのだろう。実際、試されているに違いない。
「うーん、じゃ、眼鏡かけてみるのはどう?ちょっとは壁が出来るんじゃない?」
良い解決が思いつかないのはともかく、あまりに短絡なことを言ったか、と思ったのだが。
目を瞬かせた兄は、先日作ったばかりのモニター用の眼鏡をかける。
『どうかな、ジョン?少しは賢く見えるか?』
くすり、と笑ってしまう。
「うん、イイ感じ」
『よし、今日はコレで行くか』
スーツに眼鏡、うん、確かに正しくカッコいい感じではある。
「そうだね、イイと思うよ」
兄が少しは気楽ならいいと思う。なんせ、この眼鏡は弟たちがあれやこれやと選んだのだから。
ただし、モニターとにらめっこしまくらなくてはならない兄の目が楽になるように、のブルーライトを削るだけのなのだけど。
でも、こんなのでも嫌味な大人を少しでもシャットアウトするのに役立つのなら。
「せっかくだ、それで行ってよ」
ジョンの思いを知ってか知らずか、スコットも頷く。
『ああ、行ってくるよ』
笑顔のまま、手を振ってくる。
「うん、行ってらっしゃい」
どうか、兄に必要以上の負担がかかりませんように。そう祈って、ジョンは手を振り返す。



2016.06.26

■ postscript

「#ふぁぼしてくれた人の一枚絵で勝手に小話を書く」、えのたけさんの眼鏡スーツお兄ちゃんで。

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