□ そんな休日
[ Index ]

昨日の買い出し当番だったゴードンとアランのおススメのドーナツに、ブラックコーヒーを添えてソファに腰を下ろす。
一見すると、甘ったるい類に見えるこのドーナツは、実は野菜がたっぷりな上に油を使っていないヘルシーっぷりなのだが、口当たりも味も驚くほどイイのだ、とそれはもう二人して熱心なプレゼンをされたモノだ。
甘かろうがなんだろうが、弟たちが自分の為に選んでくれたのを邪険にする気は寸分もないスコットは、ありがたくいただくつもりでいる。
一口コーヒーを口にして、昨日のレスキューで救った少年にお礼にと渡された本を膝に広げる。
「宝物なんだろう、もらえないよ」
そう告げたスコットに、少年はそれはもう真っすぐに見上げながらきっぱりと言い切った。
「僕の宝物じゃなきゃ、お礼にならないよ!」
そこまでの少年のココロを踏みにじるなど思いもよらず、ありがたく受け取ってきた。
彼は今、恐竜に夢中らしい。
図鑑形式となった本は最新の研究がきっちりと盛り込まれた図がふんだんに使われていて、スコットが眺めてもなかなかに読みごたえがある。
また、コーヒーを手にしつつ、スコットの口元には笑みが浮かぶ。
弟たちも、かつて年齢相応にアレコレと夢中になっていた。
乗り物、動物、ロボット。
大好きなことで満面の笑顔になる弟たちが愛しくて、どんなこともスコットは付き合っていた。そのせいかどうか、アレコレとなんだかんだで知識はそれなりについていた。
学生時代、意外と役立ったのはご愛敬だ。
恐竜に入れ込んだのは、アランだ。
まだ、大農場だった頃にズルズルとスコップを引きずってきて、スコットに押し付けつつ言ってのけたものだ。
「こんなに広いんだもん、絶対にどっかに恐竜いるよ!」
農場の経営には影響のないように誘導しつつ、そこらじゅうを掘り返して見つかったのは小さな三葉虫の化石だけだったけれど、それはそれはアランは喜んだ。
大捜索に延々と付き合ったスコットに、うやうやしく捧げてくれたのをよく覚えている。あの時も、大事な宝物になるだろうから取っとけばいいと言ったのに、アランは頬を染めて首を横に振ったのだ。
「宝物じゃなきゃ、お礼にならないよ!」
ああ、そうだった。
だから、この本を受けとらずにはいられなかったのだ。
おススメのドーナツを味わいつつ、スコットは小さく首を傾げる。
今のアランには興味があるかどうか。
答えはスコットには簡単だ。ひっそり興味はあるけれど、面と向かって渡されると子供扱いされているようでイヤ。
後で、忘れたようにテーブルに置いておけばいい。
海洋生物であれば、古今東西こだわりなく大好きなゴードンも喜んで開くだろう。
ワクワクとした顔つきでこの本を覗くだろう弟たちが目に浮かんで、スコットは口元を緩めつつページを繰る。



2016.07.03

■ postscript

まっくすさんのソレは優しい休日お兄ちゃんに妄想暴走した結果。

[ Index ]