□ 最速で跳べ
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「1号で行く」
そう、きっぱりと言い切ったのはスコットだった。
顔色を変えたのは、バージルとジョンだ。
「おい、1号には4号も、ましてやポッドも積めないんだぞ」
「まさか、ゴードンを」
「うん、僕も1号で行くのが一番だと思うな」
上空からとラウンジからと、二方向から責め立てられそうになったスコットを庇ったのは、他ならぬゴードンだ。
何を言い出すんだ、とばかりに振り返る二人に、ゴードンは肩をすくめてみせる。
「4号じゃ到達出来ない距離だし、2号のスピードじゃ間に合わない。はなから無理だってわかってる選択肢じゃ、最善を尽くしたとは言えないでしょ」
人が潜れる深さじゃない、とか、視界が無いのにどうする気だ、とか当然聞こえてきそうな話は全てまるっと無視してスコットへと向き直る。
「行こう、スコット」
にっと口の端を持ち上げたスコットが頷く。
「よし、出動だ」
扱うレスキューの内容を決めるのはジョンだが、最終的にどう動くか決めるのはスコットだ。絶対の一言に、もはやジョンもバージルも言葉はない。
血の気を引かせて見守る中、スコットとゴードンは、動き出す。

最高速で現場へと向かう中、ゴードンはスコットへと声をかける。
「少しでもさ、船体が浮いてくれればコッチのモノだと思うんだよね。潜って光で合図するから、どうにか出来ないかな」
1号に装備されたワイヤーでは、到達距離がギリギリで少しでもやり損えば1号ごと海の中に引きずり込まれるのをわかっていての発言だが、スコットはあっさりと頷く。
「それで行こう、ゴードン、頼む」
ジョンやバージルは、スコットは無茶が過ぎることがある、と眉を寄せるけれど。
ゴードンは、助けを求める人々の声に、ギリギリまで努力を惜しまないスコットのやり方は好きだ。彼自身のスタンスとも通じるモノがある。
助けられる可能性のある命があるのなら、極限まで努力したい。
だから、ギリギリの荒れる海面へと到達した1号から、ためらいなく飛び込んでいく。
荒れて濁る海の中で、ジョンの見つけ出した小さな手がかりを信じて真っすぐに潜り、そして、船体を見つけて合図を送る。
こういう状況での場数が多いだけに、確実性も高い兄だ。
二度のリテイクだけで、見事に船体を捉えて引き上げていく。
後は、ゴードンの独壇場だ。

全ての乗員を安全な箇所まで迎えに来ていた、相手国の船舶に送り届けてから。
1号へと戻ったゴードンは、座席に座らずに操縦するスコットに絡んでいるところだ。
「ね、ね、スコット、どうだった?」
荒れる海の波しぶきを機体に受けながら、絶対にエンジンには水を呼び込ませずにやってのけた兄は、ふうわりと口元に笑みを浮かべる。
「さすがはゴードン、だな」
「でしょでしょ?もーっと褒めてくれていいんだよ?」
覗きこめば、はは、と快活にスコットは笑ってのける。
「帰ったら汗流して、それからゴードンの好きなモノ買いに出よう。今日は僕の買い出し当番だから」
「うっはー、いいねいいね、そうしよう」
バージルとジョンに、疲れが出るから休めと言われるのが目に見えてるけれど、やっぱり兄のご褒美の方が格段に魅力的だ。とっととシャワー浴びて着替えて、スコットと買い出しに繰り出すことにしよう。
「ほら、加速するから」
笑顔のままの兄の忠告に、素直に頷いて座席に腰を下ろす。
「うん、早く帰ろ」
「FAB」
さらりと返した兄は、同時にスピードを上げる。



2016.07.09

■ postscript

杉丸さんがお兄ちゃんとGさんのコンビ絵を描いてくださったので暴走した結果。

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