□ レスキューコード1122
[ Index ]

呼ばれてラウンジに顔を出したバージルを迎えたのは、いつになく真剣な顔のスコットだ。
「バージル、すぐに2号でついてきてくれ」
「ああ、だが、いったいどんな」
レスキューなのか、と問おうとするけれど、兄の姿はすでに発射台へ向かうための壁だ。
「それは機内で説明する、急げ」
「あ、ああ」
これはかなり緊急を要するケースだ、とバージルも顔を引き締めて2号へと搭乗すべく、走り出す。

2号の座席に座ると同時にどこへ向かえばいいかを告げたジョンの顔も、スコットに負けず劣らず真剣なモノだ。
『いいかい、バージル。今回の成否はバージルにかかっている』
「わかった。ともかく、その倉庫とやらの扉が開けばいいんだな?」
『それから、すぐに中に入って、閉じ込められた対象を安心させる』
「努力するよ」
バージルは返しつつ、内心では首を傾げている。
なんせ、レスキュー対象はとある倉庫に閉じ込められてしまっていて、密閉度が高いので緊急を要する。
ただし、周囲に爆発物等があったり、災害が起こっている訳ではないので、倉庫の扉さえ開いてしまえばさほどの危険性は無さそうなのだ。
ようするに、普通ならジョンが各国の警察や救急に回してしまいそうな内容なのだ。
が、スコットもジョンも最上級に難しい任務だ、と笑みの欠片も無い顔で言う。
『失敗は絶対に許されない、いいな?』
『わかってるね、バージル』
やたらと念を押されて到着した現場には1号が降り立っている。なんとも牧歌的な雰囲気で、とてもレスキュー現場とは思えない。
唯一、奇妙なのは緑豊かな芝生の大邸宅にある倉庫だというのに、降りる前に軽くサーチしてみても周囲に人っ子一人いないらしいことだろうか。
そんな感情が顔に出たらしい。
ホロのジョンが現れたかと思うと、険しく眉を寄せる。
『バージル、本当にわかってるんだろうね?』
「ああ、わかってる。一刻を争うんだよな」
慌てて立ち上がり、ギアを身に着けて降り立てば、倉庫の前には実に難しい顔をして腕組をしたスコットが仁王立ちになっている。
急ぐ、という割にはまだ、倉庫には全く手を出していないらしい。
「レーザー、使わなかったのか?」
当然のはずの問いに、スコットの顔が険しくなる。
「使えるならとうに使ってる」
なるほど、これは難しい任務なのかもしれない。
「……わかった、じゃあ、いくぞ」
「ああ」
倉庫の扉に近付き、ギアの助けを借りて少しずつ扉を変形させていく。
ギチギチと音を立てていたソレは、やがて、バキィッ!という大きな音と共に外れる。
それを投げ捨ててから、ギアも外す。これも、スコットとジョンによくよく言われていたことなのだ。
中のモノたちを安心させるためだ、と。
「よし、もうだ?!」
大丈夫、という単語は最後までは言えない。ついでに、なにやら飛びかかられて尻餅をついてしまう。
「へ?!え?!なんだ、え?え?ええ???」
バージルの周囲には、どこから現れたのやら、大型の犬に小型の犬、すらっとした猫にもっふもふの猫、たれ耳に立ち耳、見事な単色もいれば、混色も。
ともかくも、ざっと視界に入るだけでも十数匹の犬と猫に囲まれている。
しかも、どのコもバージルと遊んでほしくてほしくてたまらない顔つきで、一所懸命すがってきている。
ぽかん、としたまま、動けないでいるバージルの視界が、一気に開く。
背後から、ヘルメットを取られたらしい。
首をひねって見上げれば、スコットが相変わらずいたって真面目に見下ろしていた。
「まだ、レスキュー中だからな」
「まだ」
おうむ返しにしたところで、べろり、と右わきから覗き込んでいたレトリバーに頬をなめられる。
なつこい顔に、思わず撫でてやれば、自分も自分もと他のコたちも一斉にバージルを覗き込む。
「わ、だから、そんな押すなって、うわ、ああああ」
押し倒されてしまったバージルは、それでも両手に頭を押し付けてくるコたちを撫でてやっている。
「こらこら、ほら、遊んでやるから、な?」
くすぐったさに笑い出すバージルと犬と猫たちを、距離を取って見つめているのはスコットだ。
「……14、15、16。きちんと皆いるな」
『そう、良かった。ホント、バージルはなぜか犬猫には大層モテるからね。もうすぐ獣医がつくから、もう少し頑張ってもらっておいてくれ』
ジョンの言葉に、スコットは頷く。
「FAB。まあ、あれだけ人を信頼出来るようなら飼い主のところへもすんなり帰れるだろう』
『なによりだ』
柔らかい響きの声を返すと、ジョンからの通信は切れる。
スコットは、改めて犬と猫にもみくちゃにされているバージルを見やって、そして口元を緩める。



2016.11.22

■ postscript

(わんわんにゃーにゃーの日でした、以上)

[ Index ]