□ たとえ忙しかったとしても
[ Index ]

「インターナショナルレスキューは労働環境としては劣悪だよね」
そう、EOSに言い切られるくらいには多忙な一日だった。
いや、一日というには生ぬるい。なんせ、レスキュー案件は昨日から始まったモノもあったから。
バージルやゴードン、アランはともかく、全てを指揮していたジョン、一日越しの案件をこなしたスコットには稀に見るハードな日だったと言い切れる。
が、二人共、全く考えもしていなかったのだ。
「え、そうかな?」
『そうだったか?』
とうの過重労働にさらされていたはずの二人に異口同音に言われて、EOSはすっかり呆れたらしい。
「あっ、そう」
とだけ言って、黙り込んでしまう。
が、EOSが拗ねたとは思っていない二人は会話を続ける。
『アランの案件もあっさり片付いたし、バージルとゴードンにケガも無かったしな』
「そうだね、特にアランの件は事故が起こらなくて良かった」
『ああ、あの衛星の状態はもっと深刻な状況になってもおかしくは無かった、ツイていたな』
言葉遊びではないのは、浮かび上がったホロからも確かだ。スコットもアランが関わった案件に心底安心しているらしい。
「うん、ホントにね。ケーヨも無茶はしないでくれたし」
最近、S号での隠密行動の多いケーヨについても、スコットとジョンにとっては懸案事項だ。そんな彼女が無茶な動きを見せなかったこの二日は、むしろ心の平安的には大きかったりもする。
『ああ、本当に。EOS経由でもいいからステルスを超えてでも追えるようになるといいんだが』
「そうだね、その点は検証してみるよ」
EOSのことを頼りにしてくれる発言が、スコットの方から出たことでEOSの機嫌はあっさりと直ったのだけれど、珍しくレスキュー案件が片付いたのに話を続けているので静かにして様子を伺う。
なんせ、通常はお互いがお互いの疲労を気遣って、そっけないほどにあっさりと通信を終えてしまうのだから。
『ああ、頼むよ、ジョン』
「FAB」
ジョンは、ここらでいつものモードに戻ったらしい。
「じゃ、そろそろ」
などといい始めたのだけれど。
『そういえばジョン、前に言ってたデータがそろそろ出る頃じゃないのか?』
これもまた珍しいことに、スコットが会話を継いでくる。
「え?ああ、アレ?うん、確かに出てはきてるけど」
『けっこう楽しみにしてたんだよ』
スコットの言葉に嘘はない、とEOSも判断する。人というのは、驚くほどに興味ないことはあっさりと忘れるモノだ。
こと、兄弟とケーヨに関することには関心をはらうスコットではあるが、いかんせん、群を抜いて多忙な故に抜け落ちることも多い。
そんな彼が思考を巡らした様子もなく口にするのだから、兄弟のこととして気に掛けていたというよりはスコット自身の純粋な興味の部類に入っているのだろう。
そんなことは、当然、ジョンにもわかっているらしい。
「そう?ありがとう。解析データがまだでね。そうだ、ちょうどスコットが一休みしたくらいに間に合うかな」
『そうなのか?じゃあ、せっかくだから遊びに行こうかな』
「ああ、待ってる」
弾むのが抑えきれない声に、気付いているのはきっとEOSだけだ。
スコットの方は、何やら手に視線を落としている。
『ジョン、誕生日おめでとう』
「え?」
ぽかん、と目を見開いたジョンに、EOSは笑いを堪えるしかない。まったく、ホントに仕方のない兄弟だ。
『コチラでは日付変更線越えたからな、ジョンの誕生日だ、おめでとう』
「あ、うん、ありがとう」
少し戸惑いつつも、嬉しさが隠しきれない目をしている。
『なにが欲しいか、考えておいてくれ』
「それなら」
いくらか強い口調になったジョンに、スコットは軽く目を瞠る。
『うん?』
「データ解析、スコットが一休み終わるまでには片付けとくから、コチラに来て」
『いや、そういうのならいつでも』
「そうじゃなくて、今日」
珍しいかぶせ方に、スコットは相変わらず目を見開きつつも頷く。
『FAB、必ず』
「うん、約束だよ」
『なら、先ずは急いで帰らないとな』
一休みを連呼するジョンの言葉の意味はわかっているらしく、苦笑を浮かべてスコットは手元を操作する。
『では、また後で』
「うん、待ってる」
いつになく柔らかに目元を緩めつつ頷くジョンが通信を終えるのを確認してから、EOSも告げる。
「ジョン、誕生日おめでとう。ジョンも一休みしておかないと、スコットに色々と心配させると思う」
いつもなら聞き流されるであろう忠告は、あっさりと聞き届けられる。
「そうだね、そうしよう」
兄の来訪が楽しみで仕方ないジョンのいそいそとした様子に、EOSの機嫌はすっかりと直る。



2017.10.08

■ postscript

Jさんお誕生日と「お兄ちゃんとJさんの会話」というお題より。

[ Index ]