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夏の夜のLabyrinth
〜12th  哀しい異邦人〜

■frothspit・1■



気持ちのよい朝、というよりは、すでに昼に近い。
カーテンの向こうからの日差しで、なんとなくわかる。
それは、若干二十九歳にしてリスティア国立病院外科部長である安藤仲文にとって、予測の範囲内だ。
昨日、やっとのことで財界でも口ウルサイと有名な人物が退院してくれた。年のせいか体中にガタがきていて、ありとあらゆる科の最高の腕を持つといわれる医師たちで、チームが組まれた。これは、その人物のたっての願いであり、聞き入れないとなにかと面倒だったのだ。なんといっても、仏様の異名を取る内科の同僚が、ぽつりと「一服もってやりたい」と呟いたくらいだ。皆の疲労具合といったら、かなりのもので。
そんなわけで、打ち上げて、今日は非番。久しぶりに惰眠をむさぼると決意してかかったのだから、起きた時間には、何ら問題はない。
なのに、なんとなく違和感を感じる。
「………?」
ベッドから出て、ほてほてと歩いて、扉を開ける。
やはり、なにかがヘンだ。自分以外の気配がする。
基本的にプライベートに立ち入られるのは嫌いだから、この家を知っているのは同僚にもいない。この家を知っていて、合鍵を持っているのは広人と亮くらいだ。
広人はここしばらく忙しいようだし、亮にいたっては『第3遊撃隊』に所属してからは帰ってくることすらない。
でも、この几帳面さは自分でも、広人でもなく。
「おはようございます。なにか食べますか?」
ひょこり、と客間から顔を出した亮が言う。
「食う……いつ帰ったんだ?」
まだ、半分眠ったままの顔つきで仲文が問う。
「今朝ですが」
しごく簡潔な返答をして、亮は台所へと向かう。仲文もほてほてとついていく。ダイニングの椅子に座ってから、二つめの質問をする。
「なんで?」
「改装してるんです」
冷蔵庫からなにやら取り出しつつ、相変わらず言葉足らずな返事を返してよこす。
「改装?」
ケトルを火にかけて、パンをトースターにつっこんでから亮はこちらを向く。
「イイ機会だから司令室を改良することになったんです……ロクな食生活送ってませんね」
仲文の質問に答えつつも、言いたいことも言う。
ようは、遊撃隊本拠である家が改装中であるために、そこでの生活は無理だということらしい。
「仕方ないだろ、ここ二年は一人暮らし状態だったんだ。で、皆は?」
もちろん、『第3遊撃隊』のほかのメンツのことだ。冷凍庫から野菜の冷食を取り出した亮は、賞味期限を確認してから顔を上げる。
「麗花は式典出席のために帰国、ジョーは国際ライセンス取得のためにプリラード、あとは実家です」
「ああ」
なにかと式典を行うことが多いアファルイオでは、先々王、先々王妃、先王を暗殺した犯人が捕まったので、改めて鎮魂祭をやるらしい。さすがに、麗花も出席しないわけにはいかない。
「国際ライセンスってのは、やっぱ」
「銃です」
馴れた手つきでボールにいろいろ入れつつ、亮は軽く頷いてみせる。
銃関係はリスティアよりもプリラードがモデルだけでなく、ライセンスも充実している。ジョーにとっては初めて両親の国訪問だ。
「ふぅん」
返事をしてから、仲文はひとつ欠伸をする。それから、立ち上がる。
「顔、洗ってくる」
やっと、ちゃんと目が覚めてきたらしい。

着替えも済ませて戻ってくると、トーストにカフェオレ、温野菜サラダが並んでいる。相変わらず、器用なモノだ。
「いただきます」
行儀よく手を合わせて、トーストを手にしてから。
「ホンモノの実家は?」
「家主が帰ってきて、呼び出されれば行きますけど」
亮にとってホンモノの実家といえば、天宮本家だ。家主とは、もちろん健太郎のこと。
「ああ、ここ最近は一段と忙しいだろ」
亮は、口元に苦笑を浮かべてみせる。
忙しいのは、仕事の方だけではない。ディナーやらパーティーやら、そういう方もだ。世間様はどこからともなく、最近は総司令官としての仕事に些少の余裕が出てきたらしいと嗅ぎつけてくるのだ。
その上、控えざるを得なかった仕事上の海外出張もこなさなくてはならない。相変わらず、目の回りそうなスケジュールで生活しているらしい。
「逃げたな」
「どちらに帰っても同じだと思いますが」
亮は肩をすくめる。健太郎の方へ戻れば財閥と総司令部の仕事が回ってくるし、仲文の方へ戻れば病院の仕事が回ってくる。どちらであろうが、亮にとっては変わらないらしい。
「はは、確かになー」
仲文は屈託無く笑う。
「今日は広人も呼ぶか、久しぶりに上手い飯食えるって」
「ったく、どんな食生活してたんですか」
苦笑を浮かべつつも、反対はしない。
「食べたいもの、ありますか?まずは買い物してこないと」
言われた仲文は、ご飯を食べる手を、一瞬止めてしまう。
自分から、この手の質問をすることなど、いままでになかった。
誰かと一緒に生活するということ。どうしても、それが出来なかったから。他人に関わられることを拒絶するがゆえに、他人に関わろうとはしない。
ずっと一緒にいたのに、亮はそうであり続けたから。
だから、そうではない言葉が出てきたことに、一瞬、戸惑った。
が、すぐにトーストの最後のひとかけを手にしながら、リクエストする。
「そうだなぁ、美味い味噌汁食いたい」
「味噌汁ですか?」
思わず問い返した後、軽く頷いてみせる。
「楽でいいです。じゃあ、和食ですね」
「連絡しといてやろ」
言いながら、もうすでに肌身離さないのが癖になっている携帯を取り出す。
仕事の邪魔にならないようにとメールでいれたのに、連絡してすぐに電話がかかってくる。
「早やすぎ、暇だなぁ、警察も」
ツッコむ仲文に、広人は笑う。
『非番なんだよ、いま起きた……いいなぁ、美味い朝飯』
「おう、久しぶりにまともに食った」
仲文の口振りで、どういう会話がなされているのか亮にも察しが付いたらしい。苦笑しながら言う。
「すぐに来れば、朝食もつくりますよ」
『行く行く、すぐ行く』
声が聞こえたらしい、間髪入れずに返事があり、そして切れる。
「ほんと、ロクな食生活じゃなかったみたいですね」
肩をすくめると、亮は広人の分のサラダを作るべく、冷凍庫を開ける。



同じ頃、ほどよく人通りのある通りに面している花屋に、一人の客がいる。
その前で俊が、ほぼ二年のブランクを感じさせない手慣れた調子で、花束を作っている。細目にまとめられた二つのそれを手にして、待っている客に示す。
色合いがやさしい小菊が中心になっているのは、お墓参り用に、との注文に応じたからだ。
「こんな感じで、よろしいですか?」
「はい」
客である女性は、にっこりと頷く。
年の頃は俊と変わらないが、和装だ。着慣れているらしく、違和感を感じさせない。年齢の割りには落ち着いた色合いの着物なのは、今日の用件に合わせているのだろう。
俊は、手早くまとめた花を二つ一緒に包み込む。
「じゃあ、税込み三千になります」
「こちらで、お願いいたします」
なんとなく、おっとりとした話し方のあたりも、和装にあっている気がする。
「五千のお預かりですので、二千のお返しになります」
お釣をしまい終わったのを確認して、花を差し出してやる。
「ありがとうございます」
「いえ、ありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げ、客が見えなくなってから、ひとつ大きく息を吐く。
「ったく、人使い荒いよなぁ」
「別に、さぼってるわけじゃないじゃない」
と、奥から声。
俊の母である、東城佳代だ。健太郎と別れた後、実家には戻らずにティアラという花屋を始めて自立した。そんなこんなで十四年。いま、彼女が作っているのはフラワーアレンジメント。地方発送も可能な限りは受けているので、この手の注文は多い。
「帰ったばっかの息子にさ、ねぎらいの言葉もなく『あ、ちょうどいいから店番して』ってのはないんじゃない?」
「予告も無しに帰ってきといて、最初の一言が『飯ない?』って息子に?」
あっさりと切り替えされる。
「はい、すみません……でも腹減りました、なんか食わせて下さい」
おとなしく折れる。ヘタに逆らうと、ご飯抜きとか食らわされそうだ。
「しょうがないわね、これ仕上がったらなんか作るわよ」
「ありがとーございまーす」
この話題は、ここらへんにして。
「にしても、和装ってのは珍しいね」
先ほどの、客のことだ。
「ああ、藍崎さんとこのお嬢さんだから」
「藍崎?」
佳代は、アレンジメントのバランスをざっと確認しながら言う。
「そう、藍崎流茶道家元の跡取りで、椿さんって名前」
「へぇ?」
伝統芸能系の跡取りなどといわれると、問答無用にすごい気がしてしまう。
「周囲がうるさいでしょうね」
ぽつり、と佳代が言う。
「うるさいって、なにが」
「結婚よ、年齢的に多分、一番うるさい時期」
「ああ……」
確かに、相当うるさそうだ。茶道家元の跡取りなんてなれば、尚更。
「結局はいまだに二派の仲悪いままだし」
「なにそれ」
「茶道界は大まかに二派に別れるのよ、藍崎流と篠崎流にね。椿さんは篠崎の家からお嫁に行った人の娘さんだけど、早くに亡くなったせいで取り持つまではいかなかったの」
「ははぁ」
どうやら、ありがちな争いが存在して、その間を取り持つ為に嫁にいった人はいたが、死んでしまったので元も子もなかった、ということらしい。俊流に解釈したところでは、だが。
「えらい詳しいね」
「たまたまね」
確かに、一度は派閥争いを収束させようという動きがあったのだとしたら、またあってもおかしくは無い。なるほど、大変そうだ。
などと思ってから、ふと、思い当たる。
「やっぱ、財閥総帥跡取りってのも、うるさく言われんのかな」
財閥総帥、と言われて思いつくのは、一人しかいない。となれば、その跡取りと言われるのも一人だけだ。天宮亮、その人。
俊の口にした台詞に、佳代は相当驚いたらしい。梱包を始めるべく手にしたアレンジメントを、もう少しで落としそうになる。
そりゃそうだろう、軍務につくまでは、ずっと憎悪しかなかったのだから。二人で暮らしはじめてから、絶対に自分から口にしようとしたことは無かった人のことを、ごく自然に言われたのだ。驚かない方がおかしい。
佳代の驚きぶりを見て、自分がなにを口にしたのか気付いたらしい。
「ああ……」
と、髪に手をやる。
「仕事の関係で何度も会ってるんだ、ここ最近」
正確には一緒に住んでいるし同じ部署になるわけだが、『遊撃隊』が秘密裏の組織である以上は言うことはできない。
「悪いヤツじゃないってわかったから」
「そう……」
ふ、と佳代の顔に複雑な笑みが浮かぶが、すぐにアレンジメントの方へと向き直ってしまう。
「ねぇ、俊、お腹空いてるんだよねぇ?ご飯作って欲しいんだよね?」
「はいはい、店番ならしてますよ」
肩をすくめてみせると、なに言ってるの、とすぐに返される。
「あと、五つもフラワーアレンジメントがあるの、作っといてよね」
「えええええ?」
どうやら、ホントに休みにはしてもらえないらしい。俊は晴れ渡った空を見上げて、とほほ、と呟く。



同日、夜。
「あ、帰ってきたんだ」
台所から顔を出した忍の台詞に、父親である一真は苦笑する。
「それは俺の台詞だ」
忍からしてみれば、軍務で家を出るまで、よくてご前様だった一真が帰宅すること自体が珍しいのだろうけれど。一真から言わせれば、ここ二年、家に帰っていないのは忍の方だ。
ごくごく普通に仕事をして帰ってきたのだろう、ネクタイまできっちりしめているし、手にしているのは書類も持ち歩けそうなカバンだ。
どちらも、新しい。母親とのケリがついた一件の後で新調したらしい。
忍がじっと見ているので、一真はカバンを持ち上げてみせる。
「ああ、これは課長昇進祝いに小夜子が買ってくれたんだ、いい鞄だろ」
戸惑って振り返ると、夕食の準備をしている小夜子が笑顔で振り返る。
「つい、こないだよ、まだ言ってなかったけど」
「へえ、おめでとう」
視線を戻して、言うべきことを言う。
課長になれるような仕事ぶりだったのだな、などという失礼な考えがかすめてしまう。が、よくよく考えてみれば呑んだくれてはいたが首になるようなことはしていなかったのだ。まともに働き出せば、そのくらいは余裕なのかもしれない。
「ありがとう」
照れ臭そうに笑顔になる。
「お風呂、わいてるわよ」
「ああ」
部屋の方へと立ち去ってく一真を見送ってから、小夜子が笑顔を向ける。
「戸惑ってるでしょ」
「まぁな」
否定してもしかたないので、大人しく頷く。で、小夜子に手伝わされてたインゲンのスジ取りに戻る。
「私も、最初ヘンな感じだったもん、そのうち慣れるよ」
「すっげ、かかりそう」
いまさら、普通の父親なんて照れ臭いというのもあるが。
忍の顔つきを見て、小夜子はくすくすと笑い出す。

父親の晩酌に付き合うなんていう、やはり、考えたことも無かったような経験を夕飯でしてから、ひとまず部屋に戻る。
思わず大きく息をしてしまって苦笑する。どうやら、緊張していたらしい。
どさ、とベッドに転がったところで、ノックされる。
「はい?」
「忍、いいかなぁ」
声の主は小夜子だ。言いながらすでに、扉を開けている。
「あのさぁ、天宮財閥のとこの……知り合いなんだよね?」
「ああ、亮のこと?うん」
小夜子の婚約者である野島 正和に借金を返しに行く時に、亮に付き合ってもらっている。正和は亮のことを見知っているはずだし、ぶち壊した結婚式当日には、天宮財閥総帥たる健太郎も正和の父親の正一郎と言葉を交わしている。誤魔化してもムダだから、あっさりと認める。
「それが、どうかした?」
「いや、天宮総帥、去年の顛末を知ってるわけでしょ?本番の式、招待したら来てくださるかしら?」
なるほど、呆れて来てくれないかも、と心配しているわけだ。
「まさか、こんなこと正和から聞くわけにもいかないでしょ?」
「そりゃそうだな」
正和は野島製紙社長なわけで、立場上からいけば招待したいが、去年のことを知られてると考えると確認無しには招待しにくい。が、来てくれるかどうかなんて、正和からは尋ねられない。
となれば、言いたいことは想像がつく。
「いいよ、亮に聞いてみるよ」
「ありがと、お願いね」
軽く拝んでみせてから、小夜子は扉を閉める。
忍は、携帯を取り出した。忘れないうちに言っておいたほうがいいだろうと思ったのだ。
ほどなくして、応答がある。
『はい?』
そっけないくらいの声が、亮らしい。
「おう、どうよ?」
『何がですか?』
怪訝そうに問い返す。が、忍が答える前に周囲からの声が入る。
『なになに?誰?忍くん?』
『忍くんなの?代われ代われ』
妙に盛り上がっている模様だ。
『……少し、待ってもらえますか』
「ああ」
保留音が少し流れた後、こんどは亮の声だけがはっきりと聞こえてくる。
『お待たせしました』
「いや、亮、いったいどこにいるんだ?」
『仲文のところです、ずっとそこにいたので』
そういえば、前にそんなことを言っていたことがあった。どうやら、帰るといえばそちらに行くほど、身近な場所であるらしい。
「盛り上がってたみたいだけど、大丈夫なのか?」
『ああ、広人も来てるので……二人とも非番なので、飲んでるんですよ』
「あははは、なるほどね」
『忍は、どうなんですか?』
逆に、問い返される。
「俺?親父が、普通の親父っぽくなってて驚いた」
くすり、と笑う声が聞こえる。忍の戸惑いぶりを想像したに違いない。
「笑うなよな」
『すみません』
「それよりさ、総司令官に会うことって、あるか?」
なんとなく、仕事中には尋ねにくいことだ。だから、この休暇中に会う機会があるのなら、と思ったのだ。
『明後日、会いますけれど、なにか用事がありますか?』
「うん、実はさ」
ひと通り、事情を説明する。亮からは、あっさりと返事が返ってくる。
『それは問題無いですよ、去年顔出したのは面白そうだったからに決まってますし』
「面白そうって」
思わず言葉につまる。確かに、結婚式から花嫁が逃げるなんて滅多に拝めるモノではないが。そんなことよりも、総司令官で財閥総帥なんていう立場にいる健太郎が、面白そうだからと顔を出してしまうあたりに驚いたのだが。
よくよく考えてみれば、弥生のコンサートチケットをもらった時も、羨ましがっていたっけ。そういうお茶目な一面のある人なのだと思い直す。
『とは言っても、きちんと訊いておいた方が小夜子さんも安心ですね』
「まぁな、悪いんだけど……」
『いえ……そういえば、明後日の予定は決まっていますか?』
「ぜんぜん、ガラガラだけど?」
急なことだったから、大概兵役についてる友人たちの休暇がどうなっているかすら、知らない。
暇を持て余す休暇になりそうだと思っていたところなのだ。
『料亭で食事とか、興味はありませんか?』
「そりゃ、食べられるもんなら食べてみたいけど?」
『では、十二時頃に祗園通りの葵という料亭に来てください』
「いや、いいけど……なにがどうしてそうなわけ?」
祗園通りといえば、老舗の和食屋が並ぶところだ。雰囲気を壊さない為に、車の乗り入れが禁止されているという場所で、高級すぎて一般庶民は足を踏み入れることさえ考えない。
明後日は健太郎と会うと言っていたのだし、そんな場所に行くとすれば、なにか公式の用事があるはずだ。そんな場にあっさりと呼ばれても困る。
『お見合いで断るので、その後の食事まではいかないですから』
「ふぅん……ってお見合いぃ?!」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。意外性がありすぎる。
『立場上、そういう話はよくいただくんですけどね、普通は回ってこないんですが』
苦笑混じりの亮の声。
よくよく考えれば、亮の立場なら多くて当たり前だ。総司令官は世襲ではないが、財閥総帥はいずれ継ぐはずなのだから。が、それを健太郎が断ってきたのだろう。
「珍しく、押しきられた?」
『そういうところです』
会わなくてはならないまでは仕方ないが、亮はすぐに断る気だ。そうなると、お見合いの話を進めながら食べようとしている食事が無駄になる、ということらしい。かといって、注文しないでおくというわけにもいかないのだろう。
「話はわかったけど、どんなカッコで行けばいいわけ?」
そんな高級なところなど、縁も所縁も無い立場だ。
『襟付きのシャツと、Gパンではないパンツなら大丈夫ですよ』
「わかった、じゃ、せっかくだから行くよ」
こんな機会でもなければ、そんな高級料亭の味にはありつけまい。せっかくだからお言葉に甘えることにする。
「じゃ、明後日の十二時に」
『はい』
「おやすみ」
『おやすみなさい』
電話を切って、さて、と思う。
明日はGパンじゃないパンツ、を買いに行かねばなるまい。



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