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夏の夜のLabyrinth
〜16.5th 雨降る日には〜

■raindrop・1■



雨が降っている。しかも、どしゃ降りの。
それじゃなくても、もう充分に憂鬱なのに。
雨は、嫌い。
大嫌い。
いつも、涙も出ないほどの悲しいことが起こるのは、こんな雨の日だから。
だから、雨は嫌い。
そんな気分だったから。
どうでもいいと、思ったのだ。
自分にせまるソレに、気付かなかったわけではない。
避けようと思えば、充分に暇があったこともわかってた。
それでも、そうする気になれなかった。
ソレが、ここまで来れば。
そうしたら、楽になれるんだと思ったから。
もう、なにも考えなくていいんだと思ったから。
だから、スローモーションのように見えるソレを、ただ、立ち尽くして見ていた。
これで、終わりなんだ。
多分、笑顔だった。

次の瞬間。
ソレは、目前から消えていた。
あと、少しのところで。
ソレを切り捨てたのが、彼。
「なにボケてんだよ!」
聞いたこともない声で、怒鳴られる。
「これ以上、失わせるのは許さないからな!」
まっすぐに逸らさない瞳は、ただ、その場の勢いではないと告げる。
本気で、彼がそう思っているのだとわかる。
自分が、終わってしまったら。
彼は、涙も出ないほど悲しいと思うのだろう。
それは、絶対に、あってはならないこと。
あんな思いを、させるのは嫌。
自分にとって、失ったら悲しくなる人なら、なおさら。
「ごめん、雨に気ぃとられた」
「魂まで抜かれんなよ」
「うん、大丈夫」
彼女が笑ってみせると。
彼は、微かに微笑んだ。

雨は嫌い。
大嫌い。
でも、少しだけ。
がんばろうと思える。
今日からは、きっと。
それはまだ、新しい軍師なんて許さないと思っていた頃のこと。



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